ロングセラー『最後のページをめくるまで』の衝撃再び! 帰宅すると見知らぬ男が死んでいた。人気ロックバンドのMVの出演がきっかけでネット中傷の標的にされた。大学の映画研究会での撮影中に仲間が命を落とす……。次々と展開される謎の先に、想像を超えたラストが待っているミステリ短編集。
「小説推理」2025年1月号に掲載された書評家・日下三蔵さんのレビューで『その嘘を、なかったことには』の読みどころをご紹介します。
■『その嘘を、なかったことには』水生大海 /日下三蔵 [評]
切れ味鋭い「どんでん返し」の連発で百戦錬磨のミステリ読者をも翻弄する人気シリーズ、待望の第3弾が、ついに登場!
08年に『罪人いずくにか』が第一回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞優秀作に選ばれ、翌年『少女たちの羅針盤』で推理作家としてデビューした水生大海はこれまでに30冊以上の著書を刊行しており、その作品には安定感がある。
いつも感心させられるのは、刊行ペースや作品の質もさることながら、手がける内容の幅広さだ。青春ミステリ、ユーモアミステリから、特殊な職業の探偵役を設定したいわゆる「お仕事ミステリ」があるかと思えば、ダークなテイストのサスペンスあり、社会派ありといった具合。
どの作品でもミステリとしての意外性を忘れていないのは頼もしい限り。そんな著者の作品の中でミステリ濃度がもっとも高いものは、小説推理に定期的に発表されている一連の《どんでん返し》シリーズだろう。
既に『最後のページをめくるまで』と『あなたが選ぶ結末は』の2冊が刊行されて双葉文庫にも入っており、今回ご紹介する『その嘘を、なかったことには』は、通算3冊目の単行本ということになる。
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どんなタイプのミステリであっても、何らかの「どんでん返し」は仕掛けられているのだから、あえてそれを前面に出すのは、相当な自信の表れといえるだろう。
パターンを知り尽くしたマニアが充分に警戒しながら読んでも、その予想を超えてくる作品がいくつもあるのだ。読み逃し厳禁のハイレベルな短篇集である。