小説の最後で読者の予想を大きく超える結末を描く「どんでん返し」。張り巡らされた伏線と巧みな文章で、つい「違う」方向へ導かれる私たちは、最後の最後で驚く。そう、まさに「最後のページをめくるまで、わかりません」。そんな魅力的な5編を収録した傑作ミステリ集『最後のページをめくるまで』が文庫化された。鮮烈なラストで、2018年のベストミステリの1編にも選出された「使い勝手のいい女」をはじめ、絶品ミステリが楽しめる1冊だ。
「小説推理」2019年9月号に掲載された書評家・日下三蔵さんのレビューと帯で『最後のページをめくるまで』の読みどころをご紹介します。
■『最後のページをめくるまで』水生大海 /日下三蔵:評
二転三転するサスペンスばかりを集めた実力派の最新傑作集! そして、どの作品でも、最後の一転は最後のページに仕掛けられている!
09年に刊行された水生大海のデビュー作『少女たちの羅針盤』は第一回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞の優秀作に選ばれた作品であった。この賞は島田荘司氏が選考に当たるものだけに、本格ミステリを対象としており、多くの受賞者を輩出している。
そのトップを切った水生大海はデビューから10年で20冊以上の著書を刊行している。もはや新鋭ではなく中堅作家の域に入っていると言っていい。
高校生や大学生が探偵役を務める青春ミステリから、ごく普通のOLが事件に巻き込まれるサスペンス、キャラクター重視のユーモラスな作品まで、そのレパートリーは幅広いが、ミステリ作家としては「意外な結末(サプライズ・エンディング)」にこだわり続けている。
ダークな味わいの5篇を収めた本書は、その趣向を極限まで推し進め、最後のページにどんでん返しが仕掛けられた作品で統一されている。「最後の一撃(フィニッシング・ストローク)」とも呼ばれるスタイルで、高度な技巧を要求される形式であることは言うまでもない。
何を言われても断り切れない葉月の部屋に、浮気が原因で別れた元恋人が上がり込んでくる。続いて彼の浮気相手だった元親友が、彼の姿が見えなくなったと言って押しかけてくるのだが……。「使い勝手のいい女」
妻を殺害した医師は、すべての証拠が灰になる火葬の時まで怪しまれないように振る舞うが、果たして通夜と告別式を乗り切れるのか……? 「骨になったら」
学費を稼ぐために特殊詐欺の受け子をしていた諒は、顔見知りの笠井老人が、まさに詐欺の被害に遭おうとしているところを間一髪で阻止する。だが、それが元で詐欺グループの上層部の怒りを買い、大金を要求されることになってしまう……。「わずかばかりの犠牲」
満智の前に現れた城田と名乗る女性は、自分が満智の夫・佑典と結婚するので早く別れて欲しいという。妻帯者と知らずに夫と付き合っていた城田には気の毒だが、そうと分かってからも婚約者だと言い張る神経はどうかしている。やがて佑典が失踪するが……。「監督不行き届き」
ひき逃げで息子を殺された夏帆は、出頭した運転手は真犯人の身代わりだと確信していた。真犯人に復讐するための入念な計画の意外な結末とは? 「復讐は神に任せよ」
視点人物に感情移入して展開に一喜一憂していると、最後に背負い投げを食らうことになるのだ。