逃げ得、許すまじ! 苦しむ被害者を横目に賠償金も払わず高笑いで生き延びる極悪人に「霞ヶ関の鬼」が鉄槌を下す。仕置き場面は過激にして超痛快、文句なしのシリーズ最高レベル。活字にするのもためらわれる失神級の闇裁きは、一生ものの読書体験となること間違いなし!!
書評家・細谷正充さんのレビューで、『東京ゼロ地裁 執行 3』の読みどころをご紹介します。
■『東京ゼロ地裁 執行 3』小倉日向 /細谷正充 [評]
小倉日向の「東京ゼロ地裁」シリーズの第3弾が刊行された。ちなみに東京ゼロ地裁とは、民事裁判の賠償金を払わぬ悪党たちを密かに裁き、強制的に取り立てる組織のこと。メンバーは、東京地裁民事部の判事をしている山代忠雄と、同裁判所の執行官の谷地修一郎。その他の協力者として、府中刑務所の刑務官の立花藤太と、歌舞伎町で非合法の医院を持つ国籍不明の美人女医・美鈴がいる。
そんな4人が新たに取り組むのが、七浦勝次という72歳の男が起こした交通死亡事故だ。100キロ以上のスピードを出していた車で会社員の墨田浩一郎を撥ね飛ばし、命を奪ったのだ。しかし被害者を担当していた医者の不可解な証言や、七浦側の強硬な態度により、賠償金は当初の予想の二割程度になってしまった。この件に不審を覚えた山代たちは、さっそく動き出す。
というエピソードと並行して、別の一件も描かれる。妻子を殺し、それをごまかすために放火をした罪で死刑囚になっていた根岸弘文の刑が執行された。だが、ずっと根岸を見てきた刑務官は彼の無実を信じ、死刑反対派の弁護士・磯貝修実に調査を依頼。磯貝は、捜査一課の岡村正樹に協力を求める。迷いながらも捜査資料をチェックした岡村は、当時の捜査が杜撰なものであったことに気づくのだった。
本書の冒頭は死刑になる根岸の視点であり、彼が無実であることが、読者に提示される。また、第二章で根岸の妹がある人物を見かけたことにより、事件の真相の半分くらいは明らかになる。作者はミステリーの重要な部分を終盤まで隠すことなく、テンポよく物語を進めていくのだ。これは七浦の件に関しても同様である。
ではなぜ、このような書き方をしているのか。読者が一番読みたいのが、ゼロ地裁の裁判場面だと熟知しているからだ。悪党たちに事実を突きつけ、いかに裁くのか。読者はこれを、ワクワクしながら待っているのである。
もちろん作者は期待に応えてくれる。まず七浦の件だが、共犯者を絶望の底に突き落としてから、強制執行の方法を言い渡すのだ。いやもう、痛快でたまらない。
さらに根岸の件は、本来ならゼロ地裁の扱う案件ではない。それでも悪党を見逃すことなく乗り出していく。そして鬼畜のような真犯人に、究極の刑罰を与えるのだ。ちょっと描写は過激だが、悪党に相応しい末路だ。これまた痛快である。ラストでゼロ地裁に、新メンバー加入する展開も嬉しい。このシリーズ、ますます面白くなりそうだ。