冴えない中年判事が実は現代版・必殺仕事人! 爽快な猛毒ミステリー「東京ゼロ地裁 執行」シリーズ 小倉日向

 

 衝撃的なデータがある。

 日本弁護士連合会が2018年に行った調査によれば、殺人事件の遺族らが犯人に対して民事裁判を起こし、請求が認められた賠償額のうち、実際に支払われた金額の割合は、たった「13.3%」だという。

 実に9割近くの賠償金が踏み倒されるばかりか、決死の覚悟で訴訟に挑んだ被害者側には多額の裁判費用の負担だけが残されるという理不尽に、絶句する人も多いのではないだろうか。

 このままでは殺され損、あまりに浮かばれない。

 そんな非情な現実を突き破るような快作が、猛毒ミステリーを得意とする小倉日向の書き下ろしシリーズ「東京ゼロ地裁 執行」である。

 主人公は東京地裁民事部の中年判事・山代忠雄。派手な刑事裁判とは無縁で、普段は妻の尻に敷かれつつ娘ふたりを溺愛する良き家庭人だが、誰にも言えぬ裏の顔があった。その正体は、霞が関「東京ゼロ地裁」裁判長──刑事事件の被害者側が民事で勝ち取った賠償金をビタ一文払わぬ悪党を、同じ手口で100万倍返しのうえ取り立てる、影の裁判所の三代目ボスなのだ。

 ターゲットは苛烈な性暴力で少女を死に追いやったいじめの首謀者、卑劣極まりない連続レイプ魔、お年寄りを虫ケラのごとくいたぶる振り込め詐欺の黒幕など、いずれ劣らぬクズ揃い。

 仕置きメンバーの現役執行官・谷地修一郎やベテラン刑務官の立花藤太らとともに地裁の地下深くに極秘に設けられた「ゼロ地裁」法廷に集った山代らは、更生の可能性「ゼロ」の悪党を選別。巧妙に罠を張り巡らせ、迷わず極刑を下していく。

 冴えない中年判事の顔から一転、凄まじい形相で悪を葬り去るその姿は、まさしく現代版・必殺仕事人。美容整形から臓器移植までやってのける歌舞伎町のグラマラスな闇医者・美鈴の力も借り、泣こうが喚こうが許しを乞おうが、惜しみなくターゲットを苦しませて地獄に堕とす。

「そこまでやるか」と唸らせられるような手口は、いっそ痛快、いや爽快だ。やはり、現代の日本において「真面目に生きている人間が損をするばかり」の救いのない世情が厳然とあるからだろう。

 被害者の無念が踏みにじられる「13.3%」の現実は、いつ私たちが同じような理不尽な目に遭ってもおかしくないことを示している。正義の天秤は釣り合わないことばかりなのだ。

 逃げ得を決して許さず、ターゲットの金も命も強制執行していく山代たちの活躍は、救いのないこの世の一筋の光。正義の天秤をグイッと引き戻す、次なる「執行」が待ち遠しい。