有名VTuberが動画配信中に首を切って殺されるという事件が起こる。「観測者」を名乗る犯人は、フォロワー100人以上のアカウントを無差別に殺すと宣言し、次々に事件が起きるが……。犯人の意図、裏で何かを企む謎の人物、そして終盤に待ち受ける大どんでん返し……デビュー作『可制御の殺人』が激賞された著者が放つ初の長編ミステリー。今回は刊行を記念して著者の松城明氏に話をうかがった。
SNSは人間が本来持つ本性を炙り出したんだと思います
──まずはデビューから２年、今回が第２作ということになりますが、本書の執筆の動機、どういうところから端を発して書かれたのをうかがえますか。
松城明（以下＝松城）：そうですね。きっかけはデビュー作に登場した「他人を意のままに操る」鬼界というキャラクターが劇場型犯罪のようなことを起こすのはどうでしょうか、と担当編集の方から提案を受けたので、そこから考え始めました。鬼界は、人を制御することを目的としているので、SNSと相性がいいのかな、と思い、そこから物語を逆算して作っていった感じです。
──SNSを使ったミステリーは先行作も複数出ているのもあるかと思いますが、SNSを題材にする難しさっていうのは、どういうところにありましたか。
松城：今回だとtwitterがベースになってるんですけど、twitterという言葉は使えないので、別名のSNSで同じような機能がある、ということを説明しなければいけなくて。でも、書いているうちにtwitterが「X」になってしまって、作中でリツイートをリポストと表記していたのですが、現実世界もXになったら本当にリポストと名称が変わってしまいました。社会の先を書いているつもりでも、現実に追い越されている……不思議な感覚も味わいましたね。
──現実社会では、いわゆるSNS上での炎上、ひとりの不祥事や疑惑を大勢の顔の見えないSNSユーザーが叩く、という行為が社会問題になっていますが、今回の作品もそれが重要なテーマになっています。執筆されていて、こういう風潮について、思うことなどありましたか？
松城：そうですね。結局、SNSが問題なんじゃなくて、人の本性というか、言葉というものが持つ力が、良くも悪くも人にすごい影響を与えるんだということをSNSという媒体があぶり出したのでは、ということは考えました。昔だったら、一人の言葉ってそんなに力を持っていなかったのに、SNSを媒介することによって、どんどん力が強くなっているっていう。一人一人が強い兵器を持ってるみたいな、そういう社会になってるなとは思います。
──作中に出てくる投稿者たちの誹謗中傷や根拠なき憶測の文言はリアルでした。
松城：ありがとうございます。でも、私はあまりSNSをやらないんです。現実もそうなんですが、ネット上でも人見知りなので、これまであまり関わってこなかった。ですので、書くにあたって過去の色々な書き込みを参考にしました。
──テーマとしては、SNS上での無差別殺人という衝撃的な内容なのですが、それと同じくらい衝撃的なのが、ラストに起こる大どんでん返しです。
松城：そうですね。この物語を考え始めた当初から、こういうふうにしようと思っていましたね。
──本書の帯にも「大どんでん返し」と書いてあるので、読者はどんでん返しがある、と思いながら読むと思います。何割くらいの方が、この仕掛けに気づくと思いますか？
松城：結構、堂々と伏線張っちゃってるので、気づく人は気づくかなと思いますけど、どうですかね。物語自体がちょっと複雑なので、あえて伏線を大胆にしたみたいな感じがあって。ミステリー好きの人なら早めに気づいちゃうのでは、とドキドキしています。
──最後になりますが、今後書きたいテーマやジャンルなどありますか？
松城：わりとSF的な展開の話が好きなので、それに挑戦してみたい気持ちはあります。基本的に「人はどう動くのか」ということを考えることに興味があるので、SF設定のなかでミステリー要素のある作品を書いてみたいと思っています。あとは、怖いものもいいな、と思うので、ホラーにも挑戦してみたいです。
──ありがとうございます。今後のますますのご活躍をお祈りしています。
【あらすじ】
人気ＶTuberの女性が生配信中に首を切って殺されるという事件が発生する。「観測者」を名乗る犯人はSNS上で「日本在住のフォロワー100人以上」のアカウント主を週に一度、無差別に殺害すると予告し、日本中が大騒ぎになる。犯人の目的とは？ その裏で何かを企む謎の人物の正体とは？ そして最後にすべてが覆る大どんでん返しが読者に待ち受ける。ミステリー界の新鋭が描く傑作長編ミステリー。
人気VTuberが生配信中に殺害…『観測者の殺人』の魅力を紹介動画でチェック！
