昨年3月に『可制御の殺人』でデビューした松城明氏。刊行後、書評家たちをはじめ、ミステリー好きの読者からも絶讃の声が相次いだ本作が、このたび文庫化された。

「鬼界」という他人を意のままに操る怪人が暗躍する連作ミステリーの文庫化に際し、松城氏に話を聞いた。

 

 

──『可制御の殺人』での小説家デビューから1年半近く経ちますが、ご自身の生活のなかで変わったこと、変わらなかったことはありますか?

 

松城明(以下=松城): 生活はまるで変わっていなくて、仕事と執筆の往復をひたすら続けています。デビューしたという自覚もほとんどありません。変わったことといえば、書店に行くときに自分の本があるかどうか一応確かめるという習慣ができました。

 

──デビュー後、杉江松恋さんや若林踏さんなどの書評家をはじめ、多くの人から高い評価を受け、今回の文庫にもコメントが載っていますが、それらを読んでどう思われました。

 

松城:驚きと嬉しさに加え、この道が間違っていなかったという安堵の気持ちがありました。一人で小説を書いていると何が面白いのか見失いそうになるので、様々な視点からフィードバックをいただけるのはありがたいことです。どのコメントも興味深く拝読しています。

 

──今回、文庫化にあたり、もう一度、デビュー作を再読した感想はいかがでしょうか?

 

松城:単行本化されたのは1年半前ですが、原型を書いたのは学生時代ということもあり、時間の流れを改めて感じました。今だったらこうは書かないだろうという箇所もあって、自分の感覚も日々変化していることに気づきました。

 

──文庫化にあたっての加筆修正で特に気にしたことはなんでしょうか。

 

松城:かなり込み入ったところのある話なので、ストーリーや描写の整合性は入念にチェックしています。また、文庫化にあたってはミステリー小説定番の「現場の見取り図」を追加して、視覚的に楽しんでいただけるように配慮しました。普段は図面を書く仕事をしていますが、これには予想外の労力を要しました。

 

──次作についてすでに大部分は完成していると伺いました。待っている方も多いと思いますが、どういう作品になるか教えてください。

 

松城:デビュー作は「鬼界とは何なのか」という謎に焦点を当てた話でしたが、連作短編という形式上、鬼界という存在について十全に語れたとは言いがたいです。なので、次作では「鬼界はいかにして人を制御するのか」という謎を長編の中で掘り下げ、より鬼界の本質に迫りたいと思います。

 

──二作目の発売を楽しみにしております。今回はありがとうございました。

 

 

工学部出身の異色作家による「他人に殺人を犯させることは可能かどうか」という命題。
果たして、その結果やいかに。ぜひ、作品でお確かめください。

 

 

【あらすじ】
女子大学院生が自宅の浴室で死亡しているのが発見された。警察は自殺と判断したが、その裏には人間も機械と同じように適切な入力(情報)を与えれば、思い通りの出力(行動)をすると主張する謎の人物・鬼界が関わっていた……。“令和最強の怪人”鬼界が暗躍する、小説推理新人賞で選考委員からその才能を高く評価された著者によるデビュー連作短編がついに文庫化。

 

松城明(まつしろ・あきら)プロフィール
1996年、福岡県出身。九州大学大学院工学府卒業。2020年、短編「可制御の殺人」が第42回小説推理新人賞最終候補に残る。本作を表題作とした連作短編集『可制御の殺人』でデビュー。