2021年は『花束は毒』が大ヒットし、世にも恐ろしいどんでん返しで話題を呼んだ織守きょうやさん。最新作は元弁護士というキャリアを活かしたリーガルミステリだ。新人の木村とベテランの高塚弁護士のバディが難儀な依頼を解決する! パワハラ、特殊詐欺、破産など現代の社会問題に切り込む連作ミステリ「木村&高塚弁護士」シリーズ第3弾!

「小説推理」2022年11月号に掲載された書評家・日下三蔵さんのレビューで『悲鳴だけ聞こえない』の読みどころをご紹介する。

 

悲鳴だけ聞こえない

 

悲鳴だけ聞こえない

 

■『悲鳴だけ聞こえない』織守きょうや  /日下三蔵:評

 

新米とベテランの弁護士コンビが依頼の裏に隠された意外な真相を暴く! 再始動した俊英のリーガル・ミステリ連作、待望の第3作ついに登場!

 

 2ヶ月前の「小説推理」で、織守きょうやのミステリ長篇『301号室の聖者』を紹介したが、これは新米弁護士の木村とベテラン弁護士の高塚が探偵役を務めるシリーズの第2弾であった。

 2015年に『黒野葉月は鳥籠で眠らない』、16年に『301号室の聖者』が出てから、しばらく中断していたシリーズが、舞台を「小説推理」に移して再開されたのである。まず既刊2冊が双葉文庫に入り、今回、オール新作の本書が、シリーズ初のハードカバー単行本として刊行された。

 顧問契約している会社の社長から舞い込んだパワハラ調査の依頼。会議室や応接室で誰かを激しく𠮟責する声を聞いた、という投書が2通もあったというのだ。社員へのアンケートと面談で告発者は判明したものの、肝心の加害者も被害者も、まったく分からない。

 調査と推理の結果、ついに加害者が浮かび上がり、最後の最後に悲鳴を上げていた意外な被害者が登場する。二転三転の表題作「悲鳴だけ聞こえない」はブラウン神父が活躍するチェスタトンの古典的名作「見えない人」の極めて現代的な変奏である。

 パチンコを利用した詐欺の被害にあった相談者は、詐欺会社の顧問弁護士に名刺を渡されたのに、と憤るが、弁護士がそんな詐欺に加担するだろうか。調査を進める中、今度は木村の名刺が詐欺グループに利用されてしまう。果たして、誰が――?(「河部秀幸は存在しない」)

 高塚と木村が作成を依頼された2つの遺言状。ひとつは放蕩息子に財産を残さず、全額を孫娘に贈りたい、というもの。遺留分があるのにそんなことが可能なのか? もうひとつは長男の監視下で全額を長男に贈る、という遺言状を作らされた父親。だが、本心では次男と仲良く財産を分けてほしいと望んでいた。これらの事案に対して高塚の取った意外な方法とは?(「無意味な遺言状」)

 第1期で唯一の未収録短篇だった「上代礼司は鈴の音を胸に抱く」を加えた全5篇を収録。どの事件にも現代社会ならではの問題点が盛り込まれ、われわれ読者の偏見や先入観を巧みに利用したトリックが仕掛けられているのが素晴らしい。

 細かい人情の機微や複雑な心理の動きを無理なくストーリーに盛り込めるのも、弁護士という客観的な立場の語り手が存在するからだろう。傑作シリーズの今後の展開に期待が高まる。