織田信長も参加する1泊の同窓会案内が届いた。冗談みたいな案内状だが、参加してみることに。銀行員から高校生まで8人の出席者は、信長、秀吉、帰蝶、光秀、滝川一益、森蘭丸など戦国武将らの生まれ変わり。他のみんなは転生前の記憶があり、自分だけが戦乱の世で誰の恨みを買ったのかがわからない。巧妙に自分の正体を隠しつつ、相手の前世を推理して、不穏な同窓会を生き抜け!
「小説推理」2025年5月号に掲載された書評家・日下三蔵さんのレビューで『戦国転生同窓会』の読みどころをご紹介します。
■『戦国転生同窓会』織守きょうや /日下三蔵 [評]
時代小説と推理小説の意外な融合! 現代に転生した戦国武将たちの同窓会に招かれた主人公の前世は、果たして誰なのか? 虚々実々の推理ゲームが始まった!
時代小説と推理小説は相性がいい。そもそも現代ミステリのルーツの一つは岡本綺堂の《半七捕物帳》であり、シリーズのスタートは江戸川乱歩のデビューより早いのだ。坂口安吾、山田風太郎、都筑道夫、泡坂妻夫から、近年では宮部みゆき、京極夏彦まで、多くの作家が優れた時代ミステリを手がけている。
織守きょうやも前作『まぼろしの女 蛇目の佐吉捕り物帖』でトリッキーな捕物帳に挑んで成功を収めていた。最新刊の本書は、本誌に連載された『信長遊戯前世同窓会』を改題・単行本化したものだが、奇想天外なアイデアで時代小説と本格ミステリを合体させた傑作である。
最近、何故か戦国時代の夢をよく見るようになった大学生の水野真広は、奇妙な封書を受け取る。それは「本能寺の変から440年を記念した同窓会」の招待状で、「織田信長公もご出席」とあった。
何かの悪戯かとも思ったが、高級旅館に泊まれるというし新幹線のチケットも送られてきた。どうせ暇な夏休み、タダで京都観光が出来るなら、と真広は参加を決意する。
当日、旅館に行ってみると、同窓会の参加者は年齢も性別もバラバラの八人であった。初対面のはずなのに、ケンカ腰の人物も何人かいる。
そして、正体不明の幹事からの伝言で、専用サイトに前世の名前と現在の名前で2つのIDを登録し、互いに交流するようにと告げられる。前世の名前は招待状の宛名に書かれていたようだが、あいにくと真広の封筒は雨に濡れてその部分が消えてしまっていた。
気軽に考えていた真広は、これが本当に戦国武将の生まれ変わりによる同窓会だった場合、因縁のある相手から危害を加えられる可能性に思い当たる。真広は数少ない情報から、どの参加者が誰の生まれ変わりなのか、何とか特定しようと考え始めるのだが……。
松平元康、帰蝶、木下藤吉郎、浅井長政、滝川一益、明智光秀、森成利(蘭丸)らと信長とのエピソードが要所で挿入され、全体の半分近くが時代小説だが、これが現代パートの前世当ての伏線になっているのが上手い。
歴史に詳しくない真広も検索して得た情報で推理を進めていくので、一般的な知識があれば充分に謎解きを楽しめるだろう。そして、論理パズルの果てに、驚愕の真相が待ち受けているのだ──。鬼才が企みに満ちた構成で描く異色の本格ミステリの登場である。