2021年に刊行した『花束は毒』が未来屋小説大賞を受賞し、今ミステリー界で注目を集める織守きょうやさん。デビューから10周年を迎える節目の今年、リーガルミステリー「木村&高塚弁護士」シリーズを3ヶ月連続刊行する。

 7月には『黒野葉月は鳥籠で眠らない』が新装版として復刊し、8月には『301号室の聖者』が文庫化。9月15日には新作『悲鳴だけ聞こえない』が単行本で発売となる。新米弁護士の木村龍一が敏腕の先輩・高塚智明と共に難儀な依頼を解決する本シリーズに込めた思いを織守きょうやさんに聞いた。

 

前編はこちら

 

【あらすじ】
『黒野葉月は鳥籠で眠らない』
教え子の女子高生への淫行容疑で家庭教師の男が逮捕された。その弁護人になった木村は、非協力的な被疑者に戸惑うばかり。だが、不起訴を望む被害者の黒野葉月が木村のもとを訪れ、法に則った驚くべき切り札で事件をひっくり返す(表題作より)。他3篇を収録。

『301号室の聖者』
木村は初めて医療過誤をめぐる損害賠償請求訴訟を担当する。笹川総合病院の301号室では、不自然な医療事故が度々起こり、立て続けに患者が亡くなってしまう。医療従事者のミスなのか、何者かによる「故意」があったのか。命の重さを問う感動の長編ミステリー。

 

弁護士経験がなければ書けなかったシリーズ

 

――第2弾の『301号室の聖者』は木村が初めて医療過誤の損害賠償訴訟を担当し、次々と病室で不審死が起こる難事件に挑みます。物語は後半になると、遺産相続における「相続人が死ぬ順番」が重要な要素となり、リーガルミステリーとして加速していきます。このあたりは弁護士としの経験があってこそではないでしょうか?

 

織守きょうや(以下=織守):弁護士になっていなかったら書けなかったと思います。遺産相続や破産など、法律で「ルール」を決めないと社会はうまくまわらなかったり、不公平になったりすることがたくさんあります。その「ルール」がミステリーと相性がよい。

 私が書いた作品でいえば、吸血鬼ミステリーの『花村遠野の恋と故意』のシリーズでは「吸血鬼は特定の行動が出来ない」とか、『ただし、無音に限り』では「霊能力はあるけど見えるモノは限られる」とか、そういった特殊設定を設けることはミステリーにおいて大事なツールですよね。

 法律もそうなんです。国が違えばルールも違うし、「こういう手法を使えば抜け道がある」とか、ある種の特殊設定だと思う。だからリーガルミステリーも発想と構造は特殊設定と同じだったんです。

 

――『悲鳴だけ聞こえない』では、パワハラ、特殊詐欺、破産をテーマにするなど、これまでの2作以上に現代的なテーマを扱っていますが、こういう社会問題や事件に普段からアンテナを張っているのですか?

 

織守:普段あまり意識はしていないんですが、弁護士だったときのことを必死に思い出しています。遺産相続は書いたな、離婚も書いたな、でも破産は書いてないなとか。なんとか経験した案件を思いだして面白く書けそうなものを選んで作品の構想を練っています。

 

――ということは、弁護士時代に経験したことが織守作品にわりと反映されているんですか?

 

織守:トリック部分以外はかなり反映されていますね。リアルです。ただ、「木村&高塚弁護士」シリーズで起こる事件は原則として現実では起きたものではないですし、起きてもおかしくはないけどそうそう起きないだろうラインです。そこはファンタジーと同じように考えています。

 たとえば表題作の「悲鳴だけ聞こえない」は、企業からの依頼でパワハラの調査をして、加害者は誰か、被害者は誰か、名乗ることのできない両者を調査していくのですが、弁護士にはこういう業務がある、とかこういう取り組みをしている会社がある、というのはリアルです。でも、謎や、実際何が起きていたのか、という真相はフィクションです。「依頼人の利益」という話では、破産申立代理人や破産管財人の業務自体は実際の私の経験をベースに書いていますし、ラストに高塚がやったことも私が実務の中で思いついたことですが、さすがに(倫理的に)どうかな……と思って実行はしていません。「理論上はあり得るけど、現実にはやらない/そうそう起きない」ということをストーリーに盛り込んでいます。

 

――最後に、これから「木村&高塚」シリーズを読む方へメッセージをお願いします!

 

織守:全作、法律が事件解決にがっつり絡むタイプのリーガルミステリーですが、難しい内容ではないので、気負わず読んでみていただけたら嬉しいです。タイプの違う二人の弁護士のバディものでもあります。
 リーガルミステリーに興味がある方、バディものが好きな方、ラストで引っくり返る話が好きな方にはきっと楽しんでいただけると思います。よろしくお願いします!

 

織守きょうや プロフィール
1980年、イギリス・ロンドン生まれ。早稲田大学法科大学院卒。元弁護士。2013年、第14回講談社BOX新人賞Powersを受賞した『霊感検定』でデビュー。15年『記憶屋』が第22回日本ホラー小説大賞読者賞を受賞し、映画化される。21年『花束は毒』が第5回未来屋小説大賞を受賞。その他の著書に『夏に祈りを ただし、無音に限り』『朝焼けにファンファーレ』『幻視者の曇り空』『学園の魔王様と村人Aの事件簿』のほか「木村&高塚弁護士」シリーズの『黒野葉月は鳥籠で眠らない』『301号室の聖者』(8月4日発売予定)『悲鳴だけ聞こえない』(9月15日発売予定)などがある。