「警視庁捜査二課・郷間彩香」「潔癖刑事」「×1捜査官・青山愛梨」シリーズなどの警察小説でヒットを連発する梶永正史氏。本作はこれまでとは違う新境地の作品で、ド迫力&スリリングな展開のアクション大作だ。愛と哀しみを背負うダークヒーローの活躍は読んでスカッとすること間違いなし!
「小説推理」2022年6月号に掲載された書評家・日下三蔵さんのレビューと書籍の帯で、『ドリフター』の読みどころをご紹介する。
■『ドリフター』梶永正史 /日下三蔵:評
爆弾テロで恋人を喪いホームレスとなっていた元自衛隊の特殊工作員が、事件の背後に隠されていた巨大な陰謀に立ち向かう鮮烈なスパイ・アクション!
2013年に『警視庁捜査二課・郷間彩香 特命指揮官』で第12回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞した梶永正史は、主に警察小説のシリーズものを中心に着実な執筆活動を続け、8年間で13冊の著書を発表している。
14冊目となる書下し長篇の本書は、虚々実々のスパイ小説にして、緊張感漂うアクション小説でもある。著者にとって新境地の一冊といえるだろう。
荒川の河川敷で面白半分に凶器を振りかざしてホームレスを襲撃していた6人の男たちは、助けに入ったもう1人のホームレスに一瞬で叩きのめされた。自ら警察に通報した男は、事情聴取に応じて豊川亮平と名乗った。
豊川は2年前、インドネシアのバリ島で無差別テロに巻き込まれ、恋人を喪っていた。記憶を失くしてさまよっていたらしく、彼がようやく保護されたのは事件から1年後のことであった。
向島署に現れた捜査一課の宮間刑事は、捜査協力を頼みたいといって豊川の身柄を請け出すが、その捜査とはホームレス襲撃事件ではなく、バリ島のテロ事件に関わる話だった……。
実は豊川は記憶喪失になどなっておらず、1年かけてテロ組織アザゼールの指導者を次々と襲撃し、組織を壊滅に追い込んでいたのだ。そのため、彼には「ドリフター(漂流者)」というコードネームが付けられていた。
コンピューターの合成音声で「ティーチャー」と名乗った宮間刑事の協力者は、アザゼールの背後には別の組織があり、日本で大きなテロを企んでいるという。復讐を果たしたと思った事件は終わっていなかった! 徒手空拳で巨大組織に立ち向かう豊川の戦いが始まった──。
冷戦時代のスパイ小説は、「国」対「国」の駆け引きを背景にしたものが多かったが、現代においては「テロ組織」対「反テロ組織」という構図になるようだ。本書での豊川は、組織に属さずにテロ組織と対峙する訳で、一種のスーパーヒーローものとしての面白さがある。
多彩な人物が登場するが、誰が味方で誰が敵なのか、終盤になるまで悟らせない辺りも巧い。随所に挟まれた活劇シーンも迫力があり、読み始めたらやめられない緊張感に満ちている。
一応、今回の事件は解決するが、敵の組織はまだ健在であり、シリーズ化にも期待がかかる。著者の新ジャンルへの果敢な挑戦を大いに歓迎したい。
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【著者・梶永正史インタビュー】
Netflixドラマに負けないド派手な展開。本書『ドリフター』でスカッとしてほしい。https://colorful.futabanet.jp/articles/-/1334