コロナ禍で行動が制限され、世界情勢も不安定。そんな鬱々とした気分をスカッと晴らしてくれる、新ヒーローが誕生した。梶永正史さんの新作は、ハリウッド映画のように疾走感溢れるアクション・エンターテインメント小説。バリ島での爆弾テロで恋人を亡くし、たったひとりでテロ組織を壊滅させた過去を持つ、元自衛官・豊川亮平の苛烈な戦いを描く!
豊川が相対するのは、日本乗っ取りをもくろむ中国の秘密組織。彼らが企む「浸透計画」とは!? 新たな作風に挑んだ梶永さんに、創作の裏側をうかがった。
(取材・文=野本由起 撮影=中 惠美子)
──『ドリフター』は、波乱につぐ波乱、スピーディな展開が続くハリウッドのアクション映画のような作品でした。エンターテインメント性を高めるために意識したことはありますか?
梶永正史(以下=梶永):アクションの勢い、読み手の流れを止めてはならないと思い、とにかく読みやすさを意識しました。次が気になるような展開を考え、読んでいる人が「もう止まらない!」となればいいなと思って。もちろん、難しい言葉を使わないといった文章表現にも気を配りました。
──銃撃戦や格闘戦など、アクションシーンもふんだんに盛り込まれています。歯切れのいいテンポで進みますが、アクションシーンを描くうえで大切にしたことは?
梶永:スローモーションのようにひとつひとつの動きを書くと勢いが削がれてしまうので、テンポを損なわないよう心掛けました。また、日本が舞台ですから、銃撃戦もやりすぎるとリアリティが薄れてしまいます。できるだけリアルになるよう人物像と併せて作りあげていきました。
今回は、主人公・豊川のかっこいいところを見せたかったので、要所要所のシーンを最初に思い浮かべ、「こういうシーンがあったらかっこいいだろうな」「ここで主人公がこういうことをしたらいいな」と考え、それらを線でつないでいくように物語を作っていきましたね。
──特に印象に残っているのは、どんなシーンでしょう。
梶永:ラストのスカイツリーでのアクションシーンです。最初のプロットにはあのシーンはなく、「なんだか物足りないな」とモヤモヤしていたんです。僕は浅草に住んでいるものですから、ある時、空を見上げて「あっ」とひらめいて(笑)。あのシーンが思い浮かんでからは、そこに向かっていくようにアクションを配置していきました。書いていて、すごく楽しいシーンでしたね。
──主人公の豊川亮平は、これまでの作品とはひと味違う強い男です。元陸上自衛官で、最強の武装集団であるテロ対策部隊を経て、情報本部に所属。その後、バリ島での無差別テロで最愛の恋人・詰田芽衣を亡くし、ひとりでテロ組織を壊滅させた過去を持っています。新たな主人公像にチャレンジした感想はいかがですか?
梶永:これまでずっと警察小説を書いてきましたが、「あ、自分はこの手の小説が好きなんだな」と気づきました(笑)。最近、Netflixのドラマや映画でも、こういうダイナミックなアクション作品が多いじゃないですか。そういうノリで、すごく楽しく書けました。
──そんな豊川が挑むのが、中国による「浸透計画」です。そもそも中国は、国家戦略として海外からさまざまな分野の優秀な人材を集める「千人計画」を推進しています。この「千人計画」に対して、思うところがあったのでしょうか。
梶永:優秀な研究者がどんどん海外に出ていってしまうのは、日本にとって悩ましい事態です。以前、日本出身のある研究者がノーベル賞を受賞しましたが、その方も日本に見切りをつけて渡米していました。こうした状況を見ていると、「この先、日本は大丈夫かな」と不安になります。とはいえ、僕がもしも科学者で冷遇されていたとしたら、研究費を出してくれる国に行ってしまうと思うんです。やっぱり研究成果を適正に評価して、資金を援助する仕組みがなければ、優秀な人材はどんどん出ていってしまうでしょうね。
「浸透計画」は、そうやって日本からどんどん研究者が流出し、空っぽになったところに中国の人材が入ってきたら……という発想から思いついた僕の創作です。人材を引き抜くと同時に、中国政府の息のかかった人物を日本に潜入させ、国家を乗っ取ろうとしていたらどうなるのか。勝手な創作なので、中国に怒られないか心配です(笑)。
──豊川は、恋人を奪ったテロ組織の黒幕であり、「浸透計画」を着々と進めている組織に立ち向かっていきます。作中では、そんな豊川を「的を絞らせない神出鬼没の“ドリフター”」と評しています。「ドリフター」というタイトルに込めた思いを聞かせてください。
梶永:実は終盤まで、タイトルは決まっていなかったんです。そんな中、担当編集さんから「ドリフター」というタイトルをご提案いただき、そのキーワードをもとにもう一度小説全体を調整し直しました。豊川は一カ所にとどまりませんし、何をしているのか、次はどこに現れるのかもわからない。敵からすればとても嫌な存在ですし、ある意味、それが豊川の最強の武器とも言えます。「ドリフター」という言葉によって、テーマがカチッと決まりましたね。
──この小説を、どういう人におすすめしたいですか?
梶永:最近はコロナ禍やウクライナ情勢など、暗い話が続いています。そんな時期だからこそ、スカッとしたい方に読んでいただきたいです。
──警察小説でデビューした梶永さんですが、『ドリフター』をはじめ、近年は作風を広げています。今後はどんな作品に挑戦していきたいですか?
梶永:オファーが来るのは警察小説ですが、いろいろな作品を書いていきたいと思っています。コラムも書いてみたいし、連載もしてみたい。それこそドリフターのように、神出鬼没な作家になれたらうれしいです。
【ブックレビュー】元自衛隊特殊工作員、現ホームレスのダークヒーローが中国の日本占領計画を阻止する!Netflixドラマに負けないド迫力のアクション大作!『ドリフター』梶永正史
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