アフターケア相談所 ゆずりは所長 高橋亜美氏

 

『自画像』『人間タワー』『君たちは今が世界すべて』『翼の翼』など、子どもを取りまく世界を数多く描いてきた朝比奈あすかさん。『翼の翼』では、中学受験に過熱してゆく家族の姿を描き、大きく注目されました。

 その朝比奈さんの最新作『ななみの海』は、児童養護施設で暮らす高校生の女の子、ななみを主人公とした物語。将来、医者を目指す少女が、部活の仲間、施設の子どもや大人たちとの交流を経て、本当に自分が進むべき道を見いだす青春小説です。

 刊行に際し、帯に推薦コメントを寄せてくださったアフターケア相談所ゆずりは(※)の所長・高橋亜美さんとの対談が実現。本書執筆のきっかけや、社会的養護を受ける子どもたちの背景についてなど語っていただきました。

出会ってきたすべての子どもたちと過ごした時間が、あたたかく蘇ってくる一冊でした。
「生きてきてくれたから出会えたよ。ありがとう」

アフターケア相談所 ゆずりは所長 高橋亜美氏推薦!

※アフターケア相談所 ゆずりは……児童養護施設等を退所した子どもたちの相談所

 

■対談〈第1回〉はこちら
■対談〈第2回〉はこちら

 

親を許せないと思う気持ちと、求める気持ち

 

──虐待する親を、子どもはどんなふうに受け止めているんでしょうか。

朝比奈:私は、虐待の報道に触れる度に、そんな親は子供と隔離したほうがいいと思っていたんです。親も、ケアされるべき存在かもしれないっていう発想がなくて。でも、もしかしたら親も何かに抑圧されていたり、自身の生育歴に何か問題があったりしたのかもしれない。そういうことに目を向けずに、悪い大人だと決めつけて糾弾すると、その人もまた居場所がなくなっていく。

高橋:ゆずりはでは、MY TREE ペアレンツ・プログラムという虐待している母親向けのプログラムもしています。母親たちは涙しながら、自分の過去の傷つきや子どもとの関係の苦しさを話してくれます。子育てにしんどさを抱える大人同士が正直に語りあいます。大人が抑圧されずに安心して生きられる社会にならないと、結局は子どもも安心して生きられない。

朝比奈:施設の取材で、アルバイトで1年かけて貯めたお金をお母さんに全部取られた、っていう話を聞いたんです。そんな親とは縁を切るしかないって、単純に思っちゃったんですけど、でも、その子がどうしてそんな親でも一緒に暮らしたいと思うのか、そのことに目を向けなければいけないんだなって思いました。

高橋:子供が親をぼろくそ言って否定したい気持ちと、親を求める気持ち、両方あっていいんだよ、って思います。私たちは子どもの前で親を非難しないし、かといって擁護もしない。でも、自分の親をしっかり怒れないまま苦しんでる子もいるから。そんなときは、「辛かったね。怒っていいんだよ」って伝えるときもあります。

朝比奈:「両方あっていいんだよ」は、まさに現実の子どもたちに接しているからこそ出てくる思いなんだろうな。子どもが親を許せないと思う気持ちと親を求める気持ち、そのどちらも大事にしなきゃいけないんですね。その子と親の関係って、外からはわからないわけですから。

高橋:親とのしんどい過去をなきものにするっていうよりは、そういうなかでも、生きてきた自分をねぎらえるようにしたい。今こうして、生きてきたあなたがいる、って。

──児童養護施設にいる子どもたちは、ほぼ18歳で自立しなければなりませんよね。

高橋:子どもに対して、「自立」っていう言葉を使いたくないんです。「自立プレッシャー」みたいで。

朝比奈:「自立プレッシャー」ですか。

高橋:施設を出た子は、「自立したんだからもっと自分は頑張らなきゃだめだ」って考えることが多い。これぐらいのことで助けてって言っちゃだめ、って。

朝比奈:取材でも伺いましたが、施設の子どもたちは、自分一人でいつかはやっていかなきゃいけないんだっていうことを考えながら、15、6歳ぐらいから準備してるんですよね。いずれ自分で生活できるようにと、アルバイト代をお小遣い帳につけて。他にも公共料金の支払い方や家事全般など、いろいろと事前に訓練すると伺いましたが、これは本当に大変なことです。

高橋:だから、18歳で施設を出ずに済んだななみが「生きのびた」って思うのに対して、「そんな思いをさせてごめんね」って思いました。

朝比奈:すごく怖いんじゃないかなって思うんですよね。生きてくためのことを一人で全部やらなきゃ、ってなるのは、何歳になってもすごく怖いし、とっても孤独なこと。それを10代、20代の若い子たちが強いられて、自立しなさいって周りから言われて……。

高橋:「自立」って言葉だけ見ると、「自分で立つ」ですよね。でも、誰かに安心して助けてって言えるとか、相談できるとか、自分一人で頑張らなくていいんだって思えることが、本当の意味で、自分で生きていくってことじゃないかと。「巣立ち」っていう言葉もまた、今の社会的養護のシステムだとそのタイミングをこちらが強いてる。本当は「啐啄同時そったくどうじ」っていう禅の言葉にもあるように、卵から雛鳥が出てくるタイミングは卵の内と外から雛鳥と親鳥がツンツンしあって自然にわかればいい。人間も、子どもと大人でツンツンしあってね。そうすれば、子どもも徐々に自分で生活していく土台ができるはず。施設の子は、そういうのナシで、いきなり社会に出なくちゃならない。

朝比奈:「啐啄同時」。良い言葉ですね。私も、そのような巣立ち方が理想的だと思います。それが許されていない今の社会制度のもとでは、生活の仕方や金銭管理を教えるのと同じぐらいに、頼り方を教えてあげた方がいいかもしれないですね。どういう所に支援を求めるか、誰に相談すればいいとか、周りに助けてもらうのが当たり前で、とても大切なんだと。若い子って結構人に頼れないんですよね。こんなことで頼っていいのかとか、頼ったら悪いんじゃないかと思ってしまって。

高橋:「いつでも待ってる」「頼っていいよ」じゃなくて、「頼ってほしい」っていうことを伝えたい。

朝比奈:そっか。頼ってほしいんだ、って。

高橋:施設の職員は、小さい子たちの世話で忙しそうにしてるとか思っちゃう。でも、逆に「相談してくれたらお金あげる」、ぐらいのこと言って(笑)。そういう冗談も交えると、「じゃあ、しょうがないから相談してやるよ」みたいな(笑)。

朝比奈:すごく大事な冗談ですね。

高橋:相談してくれてありがとうねっていうことは、必ず伝えます。自分の苦しさやしんどさを言葉にするって、とても勇気がいることだから。
 その勇気に思いを馳せ続けること、忘れずにいたいです。

朝比奈:勇気をだして相談した時に、「相談してくれてありがとうね」って言われたら、その子は本当にホッとするだろうな。一人で抱えこんでしまう子たちに、頼ることや助けてもらうことの大切さを根気よく伝えているのですね。ゆずりはさんのような場所があることを、施設を出た後の人たちをはじめ、もっと多くの人たちに知ってもらいたいなと思います。
 普段から現場で子どもと接している高橋さんのお話はとても貴重でした。
 今日はお話をさせていただき、本当にありがとうございました。

 

朝比奈あすか(あさひな・あすか)
1976年東京都生まれ。2000年、ノンフィクション『光さす故郷へ』を刊行。06年、群像新人文学賞受賞作を表題作とした『憂鬱なハスビーン』で小説家としてデビュー。その他の著書に『憧れの女の子』『自画像』『人生のピース』『さよなら獣』『人間タワー』『君たちは今が世界』『翼の翼』など多数。作品は中高受験問題に多く採用されている。

 

高橋亜美(たかはし・あみ)
1973年生まれ。日本社会事業大学児童福祉学部卒業。社会福祉法人子供の家が運営する自立援助ホーム「あすなろ荘」の職員として9年間勤務後、同法人が立ち上げた児童養護施設や自立援助ホームを退所した人たちを対象とした無料のアフターケア相談所ゆずりは所長に就任。20年2月にNHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」で、その活動が紹介される。

 

著者・朝比奈あすかさんのインタビューはこちらから
子どもから「税金泥棒」と言われる子ども。大人として、その間違いを正せるか? 朝比奈あすか『ななみの海』