左:朝比奈あすか氏 右:高橋亜美氏

 

『自画像』『人間タワー』『君たちは今が世界すべて』『翼の翼』など、子どもを取りまく世界を数多く描いてきた朝比奈あすかさん。『翼の翼』では、中学受験に過熱してゆく家族の姿を描き、大きく注目されました。

 その朝比奈さんの最新作『ななみの海』は、児童養護施設で暮らす高校生の女の子、ななみを主人公とした物語。将来、医者を目指す少女が、部活の仲間、施設の子どもや大人たちとの交流を経て、本当に自分が進むべき道を見いだす青春小説です。

 刊行に際し、帯に推薦コメントを寄せてくださったアフターケア相談所ゆずりは(※)の所長・高橋亜美さんとの対談が実現。本書執筆のきっかけや、社会的養護を受ける子どもたちの背景についてなど語っていただきました。

出会ってきたすべての子どもたちと過ごした時間が、あたたかく蘇ってくる一冊でした。
「生きてきてくれたから出会えたよ。ありがとう」

アフターケア相談所 ゆずりは所長 高橋亜美氏推薦!

※アフターケア相談所 ゆずりは……児童養護施設等を退所した子どもたちの相談所

 

児童養護施設を出たあとも、人生は続いてゆくから

 

──まず『ななみの海』執筆のきっかけを教えてください。

朝比奈:これまで児童虐待にまつわる報道を目にするたびに心を痛めてきたのですが、千葉の心愛みあちゃんの虐待事件が報じられた直後に、担当編集者と打ち合わせがあって、二人とも言葉も出ないっていう感じに……。編集者の反町さんが、これまで虐待などで亡くなってしまった子たちが、天国では集まって楽しく過ごせている姿が浮かんだと言ったときに、私も泣けてきて。その打ち合わせがきっかけで、現実の世界で子どもたちが集まって生活する児童養護施設について書かれた本を読むようになりました。高橋さんの書かれた『子どもの未来をあきらめない 施設で育った子どもの自立支援』(高橋亜美・早川悟司・大森信也共著 明石書店)も読ませていただきました。

高橋:ありがとうございます。

朝比奈:なんとか保護され、支援されている子どもも施設にいられるのは18歳までなんだと知りました。退所したあとも人生は続いてゆくということの重さを考え、自然と書いてみたいなと思いました。

高橋:『ななみの海』を読んでいると、とても映像が浮かびました。あすかさん、施設の職員してた? と思うくらいに。小説の取材で、しばらく子どもたちと一緒に生活したのかな、とも。私は自立援助ホームで働いたこともあるので、その頃の感じがパーって浮かんできました。

朝比奈:ありがとうございます。映像が浮かぶっていうのは、高橋さんがたくさん子供たちと接してきた、その記憶の積み重ねもあるんでしょうね。

高橋:これまで児童養護施設を題材にしたドラマなどもあったけど、デフォルメされているものもあって。でも『ななみの海』は、「あれ? 私、この子と会ったことあった?」って思うくらいでした。

──朝比奈さんは施設を取材されたんですよね。

朝比奈:3つの施設に伺い、施設長や自立支援アドバイザーの方に取材しました。取材を断られるところもあって。色々聞いているうちに、施設ごとにカラーや方針がだいぶ違うんだなって思いました。

高橋:そうですね。特に高校卒業後の進学やケアにすごく差があるかもしれません。進学は当たり前と考えて、「学費の心配をせずに将来の夢を描いてね」っていう施設もあれば、「高校を卒業したら働くことがあたりまえ」という施設もまだいっぱいあります。そうすると、勉強に対するモチベーションも上がらない。身近に、ななみみたいに大学に進学する子がいると将来の選択肢もまた広がっていくかもしれない。

 

第2回子どものポテンシャルを開花させるのも封印するのも、大人しだいに続きます。

 

朝比奈あすか(あさひな・あすか)
1976年東京都生まれ。2000年、ノンフィクション『光さす故郷へ』を刊行。06年、群像新人文学賞受賞作を表題作とした『憂鬱なハスビーン』で小説家としてデビュー。その他の著書に『憧れの女の子』『自画像』『人生のピース』『さよなら獣』『人間タワー』『君たちは今が世界』『翼の翼』など多数。作品は中高受験問題に多く採用されている。

 

高橋亜美(たかはし・あみ)
1973年生まれ。日本社会事業大学児童福祉学部卒業。社会福祉法人子供の家が運営する自立援助ホーム「あすなろ荘」の職員として9年間勤務後、同法人が立ち上げた児童養護施設や自立援助ホームを退所した人たちを対象とした無料のアフターケア相談所ゆずりは所長に就任。20年2月にNHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」で、その活動が紹介される。

 

著者・朝比奈あすかさんのインタビューはこちらから
子どもから「税金泥棒」と言われる子ども。大人として、その間違いを正せるか? 朝比奈あすか『ななみの海』