コロナ禍のとき、自分自身や家族、同僚、友人の感染に疑心暗鬼になった人も多かったことだろう。そんなときに外界と隔離された生活を集団で送ると人間はどうなるのか。閉鎖された空間で何が起きるのか。愛情や憎悪や嫉妬が交錯し、悲劇が起こるかもしれない──おぞましい人間の姿が垣間見える神津凛子の最新作が話題となっている。
「WEB小説推理」2026年10月号に掲載された書評家・朝宮運河さんのレビューで『アンダーウォール』の読みどころをご紹介します。


■『アンダーウォール』神津凛子 /朝宮運河 [評]
閉鎖された名門校で起きた一夜の惨劇。戦慄の学園パニック小説
デビュー作『スイート・マイホーム』以来〈家〉や〈家族〉の怖さを描いてきた神津凛子が最新作で扱ったのは、〈学校〉という閉鎖空間の孕むいびつさだ。
長野県北部にある私立高校・架純学園。森を切り開いてできた東京ドーム2個分の広大な敷地は、堀と高いレンガ塀で囲まれ、500人あまりの生徒たちは全員寮生活を送っている。カリスマ学園長の理想が反映された学園は、文武両道の名門校として人気が高い。この春学園に赴任してきた美術教師の梨子田明里は、女子寮に住み込んで、生徒のサポート役を担っていた。
ちょうどその頃、世界的に感染が拡大していた新型ウイルスが日本にも上陸。ワクチンのないウイルスに人々は戦々恐々とする。生徒の安全を最優先した学園は「学園封鎖」を決行。しかし現実のコロナ禍が社会のもろさを露呈させ、人々の分断を深めたように、隔離された学園でも日に日に不穏な雰囲気が高まっていく。そもそもこの名門校は野球部でのいじめや女子生徒の妊娠など、いくつもの問題を抱えていた。やがて一人の男子生徒が堀で不審死を遂げたのをきっかけに、夏の夜、未曾有の惨劇の幕が開く。
水泳部の顧問を任された明里、そんな明里に思いを寄せる社会科教師の阪口、陸上部の3年生・瑞月など複数の視点から立体的に学園内の人間関係を描き出していく前半は、著者が敬愛するスティーヴン・キングを連想させる読み味。その丁寧な助走部分があるからこそ、後半の学園パニックホラー的展開が盛りあがる。狂気のような思いに駆られて、暴走する大人と生徒たち。闇に包まれた学園内で何が起こっているのか、凶行を引き起こしているのは誰なのか。全貌がなかなか見えないもどかしさが、恐怖とスリルを倍増させる。クライマックスでは意外な真相が明かされるが、その先にはさらに驚愕の展開が待ち受けており、最後まで油断がならない。
どれだけ安全でクリーンな環境でも、そこに人間がいる限り闇はなくならないのか。作者が突きつけてくる現実の姿は、おぞましいのに目が離せない。