昭和、平成、令和──拳ひとつで成り上がったヤクザ・不破隆次とは何者だったのか? 「歌舞伎町の狂王」と呼ばれ、警官や政治家、一般人さえも手にかけた暴虐ヤクザの一代記が発売され、早くも話題呼んでいる。
「小説推理」2026年6月号に掲載された書評家・細谷正充さんのレビューで『血は争えない』の読みどころをご紹介します。
■『血は争えない』深町秋生 /細谷正充 [評]
血族を守るため、暴力と共に生きる。〝歌舞伎町の狂王〟と呼ばれたヤクザの壮絶な人生
最近のエンターテインメントは、アクションはあっても、バイオレンスが足りない。そのことを残念に思っている人に、お薦めしたいのが本書だ。濃厚なバイオレンスを、たっぷりと摂取できるのである。
物語は平成22年から始まる。平成14年に起きた大事件の被告となった岡谷組の二代目組長・不破隆次が、判決を下された法廷で大暴れをする。最初から血なまぐさい暴力シーンが披露され、バイオレンス好きの期待は高まっていく。
その序章が終わると、時代は昭和45年まで遡る。癌で死んだ母親の有紀子から、父親が新宿の顔役の王大偉だと聞いて育った隆次。父を頼って、王大偉の城というべき、歌舞伎町の『新宿ブライトネスビル』にやってきた。このとき彼は15歳。幼い頃から各地を転々とし、土地の子供たちからいじめられており、石を投げられて左目の視力を失っていた。もっとも負けん気の強い隆次は、いつも相手にやり返している。
以後、異母兄で岡谷組のヤクザの近藤傑志の世話になった隆次は、王大偉に協力する岡谷組の一員になり、さらには自分を受け入れてくれた王一族のために、戦いを続けるのであった。
昭和45年、53年、62年、平成8年……と、物語は時間を飛ばしながら進行する。チンピラ・ヤクザから岡谷組の二代目になる隆次の半生と暴力の軌跡が、各時代のエピソードによって描かれていく。これが滅法面白い。その生い立ちから、過剰なまでに血族を守ろうとする隆次の行動の選択肢には、常に暴力がある。商売の才覚も持ちながら、殺人も辞さない隆次の肖像に、バイオレンス好きは、強く惹きつけられてしまうのだ。
一方、時代によって変わっていく新宿という街と、人々の関係性も、大きな読みどころ。随所に意外な展開もあり、ストーリーの興趣も抜群だ。たとえ時代遅れになろうと、己を貫いた隆次の姿は、血のように真っ赤な輝きを放っている。