「県外の人から見た名古屋メシ」のコラムを連載することになった生活部の新人記者・仁木千春は、元料理人という異色の経歴の持ち主。記者の仕事は甘くないけれど、元料理人だからこそ書ける言葉がある! 味噌カツ、きしめん、手羽先……名古屋グルメの魅力がぎっしり詰まった、どえらいうまい、名古屋グルメ×お仕事奮闘記。日本ど真ん中書店大賞特別賞受賞作シリーズ第2弾が登場です。
書評家・松井ゆかりさんのレビューで『名古屋お疲れメシ通信 連載再開編』の読みどころをご紹介します。

■『名古屋お疲れメシ通信 連載再開編』森崎緩 /松井ゆかり [評]
「おいしいものを食べたら、また明日からがんばれる」元料理人の新人記者・仁木千春、待望の連載再開! 味噌カツ、きしめん、手羽先――。
お腹と心が満たされる、至福の名古屋グルメ×お仕事奮闘記
「県外の人から見た名古屋メシ」は、主人公である新聞記者・仁木千春が担当するコラムである。名産品が多数あるので、当地を訪れたことがない人でも何かしら名古屋メシの名前をあげることができるのではないだろうか。そう、名古屋にはおいしいものがたくさんあるのだ。その魅力を小説に盛り込んだら一巻では終わらないくらいに!
本書は、『名古屋お疲れメシ通信』に続くシリーズ第二弾となる。仁木は、中京新聞社生活部の新人記者。26歳の元料理人で、大学卒業後は池袋にあった祖父の洋食店で働いていた。しかし、祖父は高齢を理由に閉店を決意。仁木は第二新卒として就活を始め、名古屋で働くことになったのだった。前職が料理人というユニークな経歴のおかげもあり、仁木は前述の名古屋メシコラムを担当していた。前作で連載はいったん終了していたのだが……。
第一話「初心に返って味噌カツサンド」では、その連載が再開することになった経緯が綴られる。新連載を執筆する予定だった料理研究家に断られてしまったために代理原稿が必要になり、名古屋メシコラムを復活させようという話が持ち上がったのだ。まだまだ取り上げたいメニューが残っていたこともあって、仁木は二つ返事で引き受ける。
食をテーマにした記事を書くからといって、おいしいところだけ体験するわけにはいかないのが、仕事というものだ。記事を書くためには、職場の同僚や取材対象者たちとの交流は欠かせない。楽しいばかりではなく、時にたいへんな思いをしたり考えさせられたりすることもある。本書は、そうやって学んできた経験が綴られた仁木の成長小説でもある。連載再開を周囲へのご恩返しの機会ととらえられる仁木は、大物の器かもしれない。
食文化を知ることはその土地の文化に触れる近道といっていい。仁木は一見ほのぼの系キャラなようでいて、とてもストイック。初めて味わうものについては、「本場の料理をいただく際は失礼のないよう、まずはプロの手で作られたものを食べる」ことを重要視しているのも食へのこだわりを感じさせる。
仁木の場合は慣れない仕事や新しい環境で忙しさが続いていたり、料理人のため自炊するのも苦にならなかったりで、外食する機会がなかなかなかったという事情もあるだろう。その仁木が、第二話「寒い冬にあったかきしめん」ではインフルエンザにかかってしまった。やっと熱が下がってそろそろおかゆ以外のものを食べたいという時期に、先輩記者が必要なものがあれば買い出しをしてこようかと申し出てくれる(職場でいい関係を築けていることがこのシーンからもうかがえる)。「消化によさそうな麺」を所望した仁木に、先輩が届けてくれたのはきしめんだった。
初めて口にするきしめんを、図らずも自分で作ることになった仁木。そうとなれば料理人として丁寧に調理しようとする様子に、食へのリスペクトが感じられた。仁木の目から見た名古屋メシはいきいきと描写され、読み手のおなかも鳴ってしまいそうな魅力がある。料理をするにしても記事を書くにしても、いい意味で妥協を許さないのは記者としての資質だと思った。
おじいちゃん子である仁木は、料理人としても祖父を尊敬しているのだが、第五話「名古屋コーチンのだし巻きおにぎり」では、東京から遊びに来てくれた家族においしい名古屋メシを食べてもらう様子も描かれる。同じ料理人同士、気持ちが通じ合っている孫と祖父の愛情深い会話が心に響いた。
そもそも仁木が新聞記者を目指したのは、祖父の洋食店について書かれた記事を読んで心を打たれたから。書かれた言葉が、読む者の支えとなることがある。そしてそれは、小説にも当てはまることではないか。仁木が祖父の店の記事に励まされたように、本書を読まれた読者もまた「おいしいものを食べてがんばろう」と元気づけられるに違いない。