気鋭の歴史学者と助手が迷い込んだのは、バーテンダーと常連が歴史談義に花を咲かせる一風変わったバーだった。「ドラゴンと竜」の違いから「応仁の乱のはじまりと終わり」「天草四郎の正体」そして「徳川埋蔵金の本当のありか」まで。歴史の常識では考えられない奇説が飛び出すが、話を聞いていると意外にも筋が通っていて──。

 目から鱗の新説が次々に明かされる、人気ミステリー「歴史はバーで作られる」シリーズの第2弾『徳川埋蔵金はここにある 歴史はバーで作られる2』がついに文庫化!

 本作の読みどころを「小説推理」2021年6月号に掲載された書評家・佳多山大地さんのレビューでご紹介する。

 

徳川埋蔵金はここにある 歴史はバーで作られる 2

 

■『徳川埋蔵金はここにある 歴史はバーで作られる2』鯨統一郎  /佳多山大地[評]

 

「歴史バトル」シリーズの第2弾。今回も「応仁の乱」から「天草四郎」「徳川埋蔵金」まで。歴史の新説奇説を酒場で盗み聞きしている気分で読むべし!

 

 勝手に〈酒場バー物〉と呼ばせてもらっている。1998年の衝撃のデビュー作『邪馬台国はどこですか?』で、邪馬台国が岩手県にあったことや明治維新は勝海舟が催眠術を駆使して成し遂げたことをバー〈スリーバレー〉の一角で物の見事に証明してしまった(!?)鯨統一郎。以来、バーは鯨の十八番おはこの舞台であり、童話研究に勤しむ女子大生がアリバイ崩しに挑む『九つの殺人メルヘン』(2001年)や女性バーテンダーの「ミサキさん」が歴史の通説を打ち破る『歴史はバーで作られる』(17年)など、会話劇の面白さが際立つミステリ作品を数多く世に送り出している。

 そんな鯨の新刊『徳川埋蔵金はここにある』は、「ミサキさん」シリーズの第2弾にして、いちおうの完結篇。いちおうの、と書くのは今回、ヒロインのミサキさんのプライベートに大きな変化が訪れるからだが……じつは裏ではとんでもない悪女なのかもしれない彼女、近頃〈スリーパレー〉でもピンチヒッターでシェイカーを振っているのでご用心。

 前作『歴史はバーで作られる』では、ネアンデルタール人が滅亡に至ったいきさつや八百屋お七が江戸の町に放火した本当の理由を解き明かしてしまった(!?)が──このシリーズ第2弾では一緒くたにされがちな空想上の怪物の違いを問う「竜とドラゴンは別の生物」を皮切りに、歴史マニアでも複雑怪奇と音をあげる応仁の乱がじつは単純に説明可能とうそぶく「サルでも判る応仁の乱」、島原の乱を率いたカリスマ少年の正体に迫る「遠い国から来た天草四郎」、いわゆる徳川埋蔵金の隠し場所を大胆に推理した最終話「徳川埋蔵金はここにある」の4篇を収録している。

 東京は渋谷区道玄坂にあるバー〈シベール〉に今夜も現われるのは、少壮の歴史学者・喜多川猛きたがわたけしとその優秀な助手たる大学生の「僕」。歴史上の有名な謎や事件に対し、謎多き老人・村木春造とバーテンダーのミサキさんが阿吽あうんの呼吸から繰り出す常識はずれの説を、アカデミズムの看板を背負う師弟はあっさり論破しようとするのだが……。

 村木老人とミサキさんの二人組タッグが唱える新説奇説は、どれも途方もないホラ話のよう。なのに、あら不思議、いにしえの当事者たちはくだんの新解釈のもと生き生きと動き出し、まこと人間味を濃くするのだ。20歳以上の大人の読者は〈シベール〉の片隅に坐っている気分で、酒杯を傾けながら彼らの「歴史バトル」を愉しく盗み聞きされたい。