恋人との旅行中、目を覚ますと……隣にいたのは子どもになった彼女だった!?

 第4回双葉文庫ルーキー大賞を受賞して以来、恋愛とファンタジーが織りなす、切なくも美しい物語を紡いできた石野晶の待望の最新作!

「小説推理」2024年12月号に掲載されたさわや書店・栗澤順一さんのレビューで『いつか会ったあなたと、きっと出会う君に』の読みどころをご紹介します。

 

いつか会ったあなたと、きっと出会う君に

 

 

■『いつか会ったあなたと、きっと出会う君に』石野晶  /さわや書店・栗澤順一 [評]

 

自らの手で未来を切り開いていく魅力的なヒロインに、幾重にも仕掛けが施された読み応え抜群のストーリー。愛し合う2人の行く先に、思わず手に汗握る、著者の新境地!

 

『彼女が花に還るまで』の花守木綿子に『パズルのような僕たちは』の藤枝糸雨。これまで運命に翻弄され、悩み、戸惑い、それでも懸命に生きる女性の姿を描いてきた、石野晶。ところが本書において、運命に逆らい、愛する人のために自分の手で未来を切り開くヒロインを登場させた。それだけでも著者の意欲が伝わってくるが、加えてストーリー展開に様々な仕掛けを施しており、読者を一気に物語の世界に引きずり込んでしまう。

 主人公は、仙台で大学生活を送る晴文。専門学生の雛子と交際しているが、近頃マンネリ気味だ。迎えた夏休み、2人で旅行に出かけることに。雛子が決めた目的地は晴文が父と暮らしていた秋田の横手市と、幼少期に母と滞在した越秋島。しかも雛子は初日に岩手の北上市にある自分の祖父母宅に泊まり、2日目は宮城県沖にある越秋島に、3日目に横手に向かうと言う。非効率な行程に首を傾げる晴文だったが、懇願する雛子を前に、旅行を楽しむことを決意する。そして旅行当日、無事に北上に着いた晴文と雛子は、2人の時間を楽しむ。ところが翌朝、目を覚ました晴文の隣には、雛子が子どもになった姿で寝ており……。

 と、晴文の視点で進む前半は、雛子が計画した旅行の企図が見えず、ミステリー要素を色濃くしながら物語は進む。加えて、子どもになった雛子が重要な役どころを担うシーンからは、SF小説の展開も予感させられるのだ。そのため、ついつい「ミステリー」や「SF」といったフィルターを通して読み進めたくなるが、すぐにそう単純ではないことに気付く。

 それは雛子の視点で語られる後半、今回の旅行の真の目的が解明されていくくだりから始まっている。それまでの伏線を回収しながら進む謎解きに気を取られていると、徐々に読者は胸が締め付けられていくのだ。なぜ、晴文は越秋島で生活していたころの記憶が曖昧なのか、なぜ、晴文は自分に今日のルールを課すのか……。そう、著者はいつの間にか、晴文を取り巻く「ヒューマンドラマ」の展開までも仕込んでいるではないか。

 このように、様々な角度から楽しめる本書。とはいえ、物語の骨格を成すのはやはり「ラブストーリー」としての展開だ。何せ、雛子は時空を超えてまで晴文に手を差し伸べるほど、彼を思いやっているのだ。物語のラスト、今後の展開は読者に委ねられる。ぜひ、その余韻を楽しみながら、ページを閉じてほしい。