2021年に『彼女が花に還るまで』で「双葉文庫ルーキー大賞」を受賞し注目を浴びた気鋭の最新作『パズルのような僕たちは』は、他人と手足が入れ替わるという特殊設定で、1組の男女の絆と成長を描く青春ファンタジー。

 

ある日を境に、他人と手足が入れ替わっていく日常を、貴方は想像できるだろうか――?

 

 過度に目立たずモブとして平穏に日々を過ごしたい谷口月彦と、現役女子高生アイドルとして多くのファンを惹きつける藤枝糸雨。同じ高校に通う正反対の2人は、ある日互いの手足が徐々に入れ替わっていき、最後にはどちらか一方が死に至るという謎の病【ジグソーパズル症候群】に見舞われる。

 自らにくっついている手足が自由に動かせず、相手の協力なしには満足に生活を送ることも出来ない2人は、それでもそれぞれの抱える問題を解決し、来るべき最期の日に悔いを残さぬために、文字通り手を取り合って生きていく。

 果たして彼らが望む未来の形と、待ち受ける意外な結末とは――?

 本作のカギとなる【ジグソーパズル症候群】はもちろん架空の病気だが、自らの領域(パーソナルスペース)が意図せず他人に侵されると言い換えれば、それは私たちの日常にも当然のように起こりうることでもある。

 私的な時間や空間を侵食されるだけでもストレスの原因になるところを、避けられない運命に自由を奪われ、始終一緒にいることを強いられる2人の苦労は想像を絶するところだろう。だが、だからこそ困難に戸惑いつつも立ち向かう姿には強く心を打たれるのだ。

 特殊設定のファンタジーでありながら、王道の青春小説としても楽しめる本作に、ぜひご注目頂きたい。