2021年『彼女が花に還るまで』で「双葉文庫ルーキー大賞」を受賞し注目を浴びた石野晶。日本ファンタジーノベル大賞で優秀賞を受賞した経験も持つ著者の最新作は、身近な他人と徐々に手足が入れ替わり、やがてどちらかが死に至る「ジグソーパズル症候群」という謎の奇病に罹患した一組の男女の物語。2人の高校生の絆と成長を描く、感動の青春ファンタジー!

 書評家・細谷正充さんのレビューで『パズルのような僕たちは』の読みどころをご紹介します。

 

僕らは手足と運命を共にする、パートナーだ  運命に立ち向かう男女の絆に心ふるえる青春ファンタジー!

 

■『パズルのような僕たちは』石野晶  /細谷正充[評]

 

互いの手足が入れ替わり、やがてどちらかが死に至る奇病に見舞われた一組の男女。
過酷な運命に立ち向かう二人に訪れる結末とは――? 切なくも感動的な青春ファンタジーの傑作!

 

 ジグソーパズル症候群。それは身近な他人と段階的に手足が入れ替わり、最終的にはどちらかが死ぬという奇病である。ただし政府が秘密にしており、奇病のことを知る者は限られている。日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞している作者らしい、奇抜なアイデアだ。しかもそのアイデアを生かしたストーリーが切ないのである。

 高校三年生で、同じクラスの谷口月彦と藤枝糸雨は、ある日突然、ジグソーパズル症候群にかかった。月彦は消極的な性格で、最近のモットーは平穏無事に生きること。一方の糸雨は、地方アイドル「KOYORI」の一員として活動している美少女だ。そして二人は、両親の離婚により月彦が引っ越しするまで、幼馴染であった。とはいえ月彦は、高校で再会した糸雨と接触する気はなかった。だが、ジグソーパズル症候群により、患者のサポートをする機関の立川薫を加え、三人暮らしを余儀なくされる。また、互いに身近にいないと動きに不都合が多いため、恋人同士のふりをして学校に通うことになる。さまざまな騒動を乗り越えながら、変わっていく二人。だが……。

 糸雨を好きな同級生と月彦の卓球勝負。糸雨の「KOYORI」卒業コンサート。月彦が知りたかった、両親の離婚した理由。まず右腕が入れ替わった二人が、協力しながら体を動かす様子はユーモラスであり、目的を達成したときは快哉を叫びたくなった。それぞれの願いのために二人が奮闘し、成長しながら、運命に抗う姿は感動的だ。恋愛関係になっても先がないと薫に釘を刺されながらも、徐々に近づいていく二人の関係にもニマニマしてしまう。

 しかしだからこそ、物語の先が気になってならない。死ぬのは、月彦と糸雨のどちらなのか。もしかしたら二人共に生き残る道があるのか。何度か挿入されている、思わせぶりな文章の意味を考えながら、ラストにたどり着いて、大いに驚いた。政府がジグソーパズル症候群のことを秘密にしていた理由はこれか。薫のキャラクターには、そんな意味があったのか。さすがに真実を見抜くことは不可能だが、きちんと伏線も張ってあり、ラストのインパクトは抜群だ。

 架空の奇病、少年少女の恋愛と成長、ミステリー的な趣向。さまざまな注目ポイントを持つ本書は、青春ファンタジーの収穫だ。本を閉じて、切ない気持ちを持て余しながら、でもこの作品と出会えてよかったと思ったのである。