『彼女が花に還るまで』で第4回双葉文庫ルーキー大賞を受賞して以来、ファンタジーと恋愛を組み合わせた、切なくも美しい物語を紡いできた石野晶。最新作となる『いつか会ったあなたと、きっと出会う君に』は、一緒に旅行に出かけた彼女が突如子供の姿になってしまうという予想外の冒頭から始まる物語だが、著者が本作に込めた狙いとは──。
登場人物たちがどんな性格で、どんな子供で、どんな趣味を持っているのか。プロフィールを考えていると、その人物が自分で動いてくれるようになります。
──今回の新刊『いつか会ったあなたと、きっと出会う君に』は、お互いのふるさとを巡る旅に出たカップルのうち、彼女である雛子が子どもの姿になるという驚きから物語が始まります。この意外な冒頭は、どういったきっかけから生まれたのですか?
石野晶(以下=石野):冒頭の場面を思いついたのは、もうずいぶん前のことです。20年くらい前だったかもしれません。どうやって思いついたのかは、本当に私が知りたいです。ある日突然この最初の場面が頭に降ってきて、どうして子供になったんだろう? と考え始めたことでこの小説ができあがりました。子供の時から不思議な話を好んで読んでいたので、ファンタジー設定が出てきやすいのかもしれません。寝かし過ぎた感じはありますが、どうにか登場人物たちを世に出すことができてよかったです。
──物語はまずは彼氏である晴文の視点、中盤からは雛子の視点で語られるという構成で、がらりと物語の様相も変わってきます。主人公を2人置いた意図はどこにあるのでしょうか?
石野:前半で謎をちりばめていって、後半で彼女の行動の意味を描いていくという構成にしたかったのです。私は一人称で書く際、登場人物に密着カメラをつけて映画を撮っている感覚で書いているのですが、そのカメラでは見えない部分が出てきます。晴文側から見たら謎な部分、雛子がついた小さな嘘の意味。それを雛子側からの視点で描くと、違う景色が見えてくる、というのが私のやりたかったことです。書き進めるうちに、二人がこういう形でお互いの子供時代を知れるというのは、いいことだなとも思いました。
──これまでの著作でもそうでしたが、特殊な設定をラブストーリーに上手く落とし込んでいる作品でもあります。設定をもとに物語を構築する中で、特に苦労された部分などはありますか?
石野:こういう展開にしたいと思っても、矛盾点が出て来て取りやめるということがありました。ファンタジーとはいえ、物語全体で整合性が取れていないとやはり説得力に欠けてしまいますので。それから、特殊な設定の元でヒロインは行動しなければならないのですが、縛りが色々あるせいで少し動かすだけでも苦労しました。ネタバレになるので詳しくは言えないのですが、時間とか、距離とか……。
──今回の作品に限らず、現実にある葛藤や喜びを、ファンタジーな要素を駆使して描いてこられました。テーマと設定のどちらから物語を作っていくことが多いのですか?
石野:書く時はいつも設定から入りますね。少し特殊な状況下に置かれた登場人物が、どういうことを思い、どういう行動を取るのかということに興味があるのだと思います。過去作では、舞台となる場所を箱庭のように作りこんでから書き始めるということもありました。人物の設定が特に大事だと感じていて、ある程度のプロフィールを考え、どんな趣味があり小さなころはどんな子供だったか、家族構成や性格を考えていると、その人物が自分で動いてくれるようになります。登場人物同士が勝手に会話をするようになって、やっと執筆に入れるという感じです。
──ちなみに、今後の執筆でチャレンジしてみたいテーマや、興味を持っている題材などはありますか?
石野:チャレンジしてみたいのは、もう少しファンタジー色の強いお話です。相変わらず植物が好きなので、魔法的な力を持つ草花を扱う人間の話を書きたいなとは思っています。もう一つ、やっぱり植物がらみの奇病もので、療養所を舞台にした人間模様という構想も頭にあったりします。過去作の『月のさなぎ』のような、閉じた空間がまた書きたいなあと。
──最後に、本作を手に取ってくれる読者に向けて、本作の読みどころや、メッセージをお願いします。
石野:物語の始めに、彼女が子供になります。私は、何故彼女が子供になったんだろうとあれこれ考えて、このストーリーを生み出しました。これを読む方達にも、何故子供になったんだろう? とまずは考えてみて欲しいです。この小説は晴文と雛子がお互いの故郷を訪ねる旅をするという形で進んでいきます。仙台から北上、宮城県沖の離島や横手など出てくるので、本を読みながら旅行気分を楽しんでいただければと思っています。冒頭で子供になったヒロインは、愛する人を救うという使命を抱えています。彼女の思いとその行き着く先を見届けていただければうれしいです。