シリーズ累計10万部突破! 「それぞれのおひとり模様に共鳴し、前向きになれた」など多くの支持を得た前作から「もっと読みたい」の声にお応えして、同じ作家陣による第2弾がついに発売。「再出発」をテーマに続編あり、まったく新たな物語もあり、ほっこりしみじみと気軽に味わえる“保存本”!
「小説推理」2024年11月号に掲載された書評家・門賀美央子さんのレビューで『おひとりさま日和 ささやかな転機』の読みどころをご紹介します。
■『おひとりさま日和 ささやかな転機』大崎 梢 岸本葉子 坂井希久子 咲沢くれは 新津きよみ 松村比呂美 /門賀美央子 [評]
ひとりだから見えてくる人生の転機、ひとりだから選べる次の道。何かを手放せば、新しい宝物が見つかる。ひとり生きる愉しみを存分に描く短編競作集。
単身生活者を指して「おひとりさま」と呼ぶのもすっかり一般的になり、当初は揶揄混じりのニュアンスだったのが近頃ではポジティブな意味合いで使われることも増えてきた。七万五千部に到達したシリーズ第一作目『おひとりさま日和』に続く第二弾に前向きな人生を描く作品が集まったのも、そうした変化が背景にあるのかもしれない。
6人の作家が手掛けた各話は、主人公がおひとりさまであるほかは、何一つ同じところはない。一部の作品は第一シリーズの収録作と同じ舞台設定が使われているものの、いわゆる続き物ではないので、本作から入ってもまったく問題ないだろう。
口火を切る大崎梢「アンジェがくれたもの」は、前回同様番犬のレンタルサービスを巡るちょっとした騒動を描く。ただし、語り手は独居老人ではなく、叔父の入院中に留守宅を預かることになった独身者の甥。そう、世のおひとりさまは何も老女だけではない。男のおひとりさまだってなかなか生きづらそうである。岸本葉子の「友だち追加」は前回の主人公ナツが再登場するが、今回はなんと雑誌モデルとしてデビューを飾る。とはいえ彼女のこと、それほど華々しい話でもなく……。坂井希久子「リフォーム」は少し前に話題になっていた離婚式を巡る物語。壊さなければ始まらない人生もある。独身女性にとって最高のパートナーである猫は、咲沢くれは「この扉のむこう」に登場する。去る者あれば来る猫あり。人生の同伴者は別に人でなくたっていいのだ。だって、人は裏切るもの。良きパートナーだったはずの亡夫の秘密を知ることになった妻の葛藤に始まる新津きよみ「リセット」では、望みもしないのにおひとりさまになった悲嘆から脱するきっかけを意外な人物が与えてくれる。この出会いもつらい別れがなければありえなかった。そして、掉尾を飾る松村比呂美「セッション」は、夫の不倫という傷から立ち直れないまま一人娘の心を傷つけ、結果として孤独な道を歩んできた女性が、ひょんなことで音楽に目覚め、人生を取り戻していく姿を追う。失ったはずの喜びも生きがいも、殻を破ればすぐ隣にあるかもしれない、のだ。
人生の転機は誰にでも訪れ、その訪問者は必ずしも良い顔ばかりはしてくれない。だが、そいつを敵にするか、友にするかは自分次第。人生の節目を六者六様に切り抜けていくおひとりさまたちの奮闘に、明日への力をもらったような、そんな気がした。