訓練された賢い番犬をペットとして迎えられる「レンタル番犬サービス」を通して、5つの家庭を描く『リクと暮らせば レンタル番犬物語』。防犯のため、癒しのため……などそれぞれの理由で犬を迎えた利用者たちの人生が少しずつ変化していく。 

 

「小説推理」2025年10月号に掲載された書評家・大矢博子氏のレビューで『リクと暮らせば レンタル番犬物語』の読みどころをご紹介します。

 

リクと暮らせば レンタル番犬物語
リクと暮らせば レンタル番犬物語

 

『リクと暮らせば レンタル番犬物語』大崎梢  /大矢博子 [評]

 

大事なものを守ってくれる犬との日々。でもレンタル番犬が与えてくれるのは、安全だけじゃないぞ!

 

 訓練された優秀な番犬を自宅に迎えることができるレンタル番犬サービス──という設定にまずわくわくした。毎日の散歩や医療ケアは番犬を派遣するペットサービス会社にすべてお任せできて、月額10万円。高額ではあるが、一人暮らしの高齢者や女性だけの世帯などにとって、実に心強いサービスではないか。

 

 現実のペットレンタルは愛玩犬ばかりで、番犬サービスは著者の創作によるものだと知ったときにはがっかりしたものである。半ば真面目に考えたのに!

 

 本書はそれぞれの事情で番犬をレンタルした5つの家庭の物語である。不審者の情報に怯える一人暮らしの高齢女性。入院が決まった伯父の留守番として番犬付きの家に住むことになった青年。ドーベルマンと暮らす女性ばかりのシェアハウスに入居することになった母娘。夫を亡くして一人になったが、ある事情で近所付き合いを拒否している女性。隣の家にやってきた番犬に夢中の、犬好きの高校生。

 

 各話に登場する番犬たちは侵入者を阻んだり犯罪者を追いかけたりと大活躍だ。大捕物帳あり細やかな愛の物語ありとバラエティに富んでいてとても楽しい。最初は犬に馴染めなかった飼い主たちも、犬が寄り添ってくれる姿に少しずつ心を溶かしていく。

 

 ──と書くと、犬と人の絆を描いた物語だと思われるかもしれない。だが本書の主眼は実は他のところにある。これは犬を媒介に、各話の主人公たちが失っていた「地縁」を取り戻す話なのである。

 

 犬がいることで家族とのかかわりが増えた者。散歩の時に犬に挨拶してくるご近所さん。夜中に犬が吠えれば、あるいは犬が不審な行動をとれば、気づいた人が気にかけてくれる。声をかけてくれる。以前はなかった交流がそこに生まれる。

 

 本書は人と犬の話ではなく、人と人の話なのだ。番犬たちはあくまでもレンタルだが、その犬を通して、一時の借り物ではない地縁を主人公たちは手にする。これこそが本書の最大の魅力なのである。