「レンタル番犬サービス」を通して、5つの家庭を描く『リクと暮らせば レンタル番犬物語』。さまざまな理由で犬を迎えた人々が、番犬との日々を通してどのように暮らしが変わっていくのか。これまで書店や出版社など様々な本の現場を舞台にしてきた著者の大崎梢さん。新しいテーマに挑んだ執筆の背景や物語に込めた思いを伺いました。

取材・文=編集部 撮影=鈴木慶子

 

 

──第1話「リクと暮らせば」はもともとアンソロジー『おひとりさま日和』に書き下ろされた作品でした。新しいテーマに挑戦した今作でしたが、「レンタル番犬サービス」という発想は、どこから生まれてきたのでしょうか?

 

大崎梢(以下、大崎):昨今の物騒な事件がきっかけです。空き巣ではなく、家の中に人がいても暴漢が押し入る強盗事件が多発しています。そんなとき、番犬がいたらどんなに心強いか。でも番犬が務まるような大型犬を飼うのは難しいのが現実です。そこで犬の貸し出しを、ビジネスとして展開している会社を考えてみました。

 

──番犬の頼もしさ、賢さが存分に感じられる第1話でしたが、大崎さんは犬を飼った経験があるのでしょうか? 

 

大崎犬を飼ったことはないです。ただ最近、友だちの飼っている大型犬と接する機会があり、いくらかでも距離が縮まったかも。飼い主さんたちの愛情の深さを目の当たりにし、犬がどんなに魅力的な生き物であるのかを感じ取ることもできました。

 

──『おひとりさま日和』が大好評につき第2弾『おひとりさま日和 ささやかな転機』が企画され、第2話「アンジェがくれたもの」が「小説推理」に掲載されました。続きを書きたい思いはあったのでしょうか?

 

大崎:私にも犬が飼えたなら、賢い番犬と一緒に暮らせたら、そう思うとわくわくしました。大げさかもしれませんが、自分の人生が変わるような気さえします。驚きと発見に満ちた新生活の予感です。これを味わいたくて第2話にぐっと気持ちが傾きました。

 

──「レンタル番犬サービス」の話をもっと読みたくなった担当編集者のリクエストに応える形で3編が追加され、一冊の本としてまとまることに。第3話の「ウィ・ラブ・ナンシー」ではシェアハウスで犬を飼うという設定に驚かされました! なぜシェアハウスを舞台にしたのでしょうか?

 

大崎:2話目を考えたときからシェアハウスのアイディアはありました。すでに犬を飼っている人たちの中に、あとから入っていく話です。レンタル番犬は費用がけっして安くはないので、複数人で飼えば個人負担が軽減できるメリットもあります。この話の主人公は犬が苦手で、共同生活も気が進まないのですが、ならばどうして、というところを読んでいただきたいです。

 

──第4話「ランパト」の主人公は、夫を亡くしたばかりの高齢の女性。「ランスがいるから広い家にひとりでも怖くない。夫の死も乗り越えられるのではないか」という一文に番犬の存在がいかに人間にとって支えになっているか感じられました。第4話について執筆の裏話があれば教えてください。

 

大崎:レンタル番犬を飼い始めて数年が経過した人の話を書いてみたくて考えました。本作の主人公にとっても出会いや気づきがあり、新しい世界が開けていくような思いがもたらされればと。愛犬と歩いて行く彼女の日々に、希望を託すような気持ちです。

 

──ラストの第5話は進路に迷う高校生が主人公です。大人が主人公の話が多かったので、意外でした! 

 

大崎:番犬サービスの会社のことも書きたかったので、若い彼に登場してもらいました。直接の飼い主ではないところもミソです。彼の進路を思うと、いろいろ大変なこともあるだろうけど眩しくて楽しみ。犬たちとの出会いや飼い主との交流を通じ、豊かで強い心身を持つ人になってほしいです。無鉄砲さは自重して。くれぐれも。

 

──物語全体を通して、最初の構想から変わった部分や膨らんだ部分、書いていて楽しかった部分、読みどころなどを教えてください。

 

大崎:レンタル番犬は私の思いつきで、今のところ架空のサービスです。でも、いろんな方から「いいね」「やってみたい」「私も受けたい」と声をかけられました。もしかしたら実現は夢じゃないのかも。ひとえに犬の魅力あればこそ、ですね。

 そんな、頼もしい守護神を、ひと足先に得た人たちの物語をぜひ読んでみてください。