『怪談青柳屋敷・別巻 踏切の少女』(双葉文庫)を発表したばかりの青柳碧人さんと、実力派若手怪談師・チビル松村さんとのスペシャル対談後編! チビルさんが語りたいと思った青柳さんの怪談とは? 怪談の面白さを知り尽くしたお二人によるトークは、読みどころ満載。チビルさんが明かす怪談取材のコツも必読です。
取材・文/朝宮運河 写真/宮本賢一
■「入ってはいけない神社」に行ってみたい!?
チビル松村(以下=松村):新作では立ち入り禁止の神社の話(「入ってはいけない」)も好きでした。あれは場所が分かればぜひ行ってみたいです。
青柳碧人(以下=青山):足を踏み入れたらおかしくなるという神社ですね。東北地方のどこからしいんですが、バーで一緒になった人から聞いた話なので、詳しい場所はよく分からないんです。
松村:青柳さんはよく飲み屋で取材されていますよね。僕はそれができないので羨ましいです。
青柳:お酒が得意じゃない?
松村:それもありますけど、酔ったおじさんと会話をするのが苦手というか。何度かがんばったんですが、ヒット率が低いんですよね。「逆に人間が怖いね」とか言われたら、思わずむっとしてしまいそうで(笑)。
■同世代の怪談をアーカイブしていきたい
青柳:僕はもともと飲むのが好きだし、お酒が入っている方が話しやすいです。酔っ払い過ぎて翌朝メモを見ても、話がまったく思い出せないこともあるけど(笑)。まあでもチビルさんのような若者が、おじさんにいきなり怪談を聞くのはハードルが高いかもしれないですね。
松村:それがちょっと悩みですね。それに中高年の方の怪談だと、こちらの知識不足のせいで情景がイメージできなかったりすることも多いんです。なるべく深くは聞くようにしてるんですけど、昭和の時代を知っているわけじゃないので、もどかしい思いをすることがあります。
青柳:若い人の怪談を集められるのが、チビルさんの強みでもありますよね。
松村:そうですね。今31歳なので、どうしても同世代かそれより若い人たちの怪談が多くなります。自分の役目として、この世代の怪談をアーカイブしていこうかなと思っています。
■怪談を「浴びせ倒す」ことで体験談を引き出す
青柳:じゃあ、チビルさんはどういう状況で取材しているんですか?
松村:古着屋さん、雑貨屋さん、古道具屋さんなどが多いですね。その中でも個性を出しているお店を狙います。地価の高い繁華街のお店は、収益を上げないといけないのでメジャーな品揃えなんですけど、ちょっと下町や郊外にずれると個性的なお店がある。そういうお店の店長は怪談を持っている気がします。
青柳:僕はそっちのほうが無理です。どうやって怪談取材に話を持っていくんですか。
松村:最初から「怪談師です」と名乗ることが多いですね。それで興味を持って、話してくれる人がいるので。それで駄目なら、こちらからひたすら怪談を浴びせかけます(笑)。それもなるべく小さな、短い怪談を。たとえば食パンがひとりでに飛んで壁にぶつかった話とか。そういう話を続けていると、「そういう話ならわたしも」と口を開いてくれるようになるんです。
青柳:分かります。なまじクオリティの高い話をすると、相手が身構えちゃいますから。
■話上手はだいたい怪談のレパートリーあり
松村:「怖い話をしてください」っていうのは「面白い話をしてください」っていうのと同じくらいハードル高い。そのハードルを下げるのが大事なんでしょうね。
青柳:慣れてくると、何となくこの人は持ってそうだな、と分かってきますね。まあ勘が外れることもあるんだけど(笑)。
松村:東京の青梅にパプアニューギニアの料理を出すお店があって、ここは絶対怪談があるはずだと、田中俊行さんと通っていたことがあります。個性的な方ほど、不思議な体験を勘違いと片づけずに、印象的なエピソードとして覚えておく傾向があるんじゃないかな、という気もします。
青柳:それはあるかも。話上手な人は、大抵ひとつふたつ怪談のレパートリーも持っていますから。
■チビル松村流「怪談蒐集のマル秘テク」とは?
松村:それとあまり公開したくない秘密のテクニックがあって。怪談を集めているんですと伝えた後に、「勉強をよくしている人ほど世界には、まだ未知の領域があることを知っているので、そういうものを信じているらしいですよ」とつけ足すんです。するとプライドを刺激されるのか、積極的に話してくれます。
青柳:なかなかに性格の悪いテクニックですね(笑)。
松村:でも『怪談青柳屋敷』を読んでいて少し悔しくもあったんです。本来なら自分に回ってくるはずだった怪談を、青柳さんに持っていかれたという気がして……(笑)。特に自分の話にしたかったのは、前作に入っていた「押し入れの女」という話。
青柳:修学旅行での幽霊騒ぎの話ですね。あれは女子高の教師をしていた母親から聞いたんです。
松村:修学旅行をスムーズに進行させるために、幽霊が見えているのに見えていないふりをする。ああいう怪奇現象によって起こるドタバタが好きなのかもしれない。自分のライブでも話したいくらい好きでしたね。
青柳:チビルさんにそう言ってもらえると光栄です。せっかくだから一緒に取材してみたいですね。いい話が聞けたら、喧嘩になるかもしれないけど。
松村:田中さんとは一緒に取材することがあるんです。二人とも語りがメインなので、それぞれ自分のライブで披露しても問題ないんですが。青柳さんは本にされるので。いい話が聞けたら、公平にじゃんけんですね。
■怪談本を書くことで怪談がさらに集まる不思議
青柳:チビルさんは単著を出さないんですか。チビルさんの怪談を文章で読んでみたい気もするけど。
松村:書いてみたいなとは思っています。どうせなら百物語じゃなくて二百物語、一回呪われてまた戻る、みたいな仕掛けの本にしたいですね。
青柳:どういうシステムなんですか(笑)。本を書くとまた怪談が集めやすくなりますし、ぜひ書いてください。今回の『踏切と少女』の巻末に入れた「花瓶のある店」という長めの怪談も、一冊目を読んだ方から提供されたものなんです。
松村:それは羨ましい。自分もひとりでに怪談が集まってくるようになるまで、がんばります。
青柳:応援しています。チビルさんの登場以降、明らかに流れが変わったと思いますし、これからの怪談シーンが楽しみです。
【了】