怪談好きのミステリ作家・青柳碧人さんが、自ら取材した実話怪談をまとめた『怪談青柳屋敷・別館 踏切の少女』(双葉文庫)が発売されました。昨年刊行されて話題を呼んだ『怪談青柳屋敷』の続編です。刊行を記念して、青柳さんもファンだという人気怪談師・チビル松村さんとのスペシャル対談をお届けします!

取材・文/朝宮運河 写真/宮本賢一

 

 

■衝撃的だった怪談「養殖場の消えるカンパチ」

 

青柳碧人(以下=青柳):今日はよろしくお願いします。チビルさんにはずっとお会いしたいと思っていたんですよ。こんな機会でもないとお話しできないので、対談相手をお願いしてしまいました。

 

チビル松村(以下=松村):こちらこそ、呼んでいただいてありがとうございます。声をかけてくださったら、いつでも参上しますよ。田中俊行(※1)さんの家あたりにでも。

※1呪物蒐集家、怪談師、イラストレーターなど多彩に活躍。『クレイジージャーニー』などメディア露出も多い

 

青柳:そうそう、我々は田中さんを介して繋がっているんですよね(笑)。今日対談をお願いしたのは、チビルさんは怪談の流れを変えた人だと思うからです。チビルさんの怪談は、2019年のOKOWA(※2)の頃から聞いていますけど、この人はちょっと違うなと思ったのはCSの『怪談のシーハナ聞かせてよ』(※3)に出演された時に話した、養殖場のカンパチが消える話。あれは狙って話したんですか。

※2松原タニシ氏を発起人に2018年から開催された「最怖」を決める怪談チャンピオンシップ
※3エンタメ~テレで2016年から放送しているホラー・バラエティ番組。著名な実力派怪談師が多数出演

 

松村:いや、そういうわけでもなくて、出演の少し前に聞いた面白い話を、何気なく披露しただけだったんです。

 

青柳:こんな怪談をする人がいるんだってびっくりして。僕みたいに怪談をたくさん聞いていると、正直混ざってくるんですよ(笑)。タイトルを聞いても「これどんな話だっけ?」となることが多いんだけど、チビルさんの怪談は出だしを聞いただけで、「ああ、あれね!」と思い出せる。

 

松村:忘れてもらった方が、得かもしれないですけどね(笑)。

 

■突飛な話こそ実話怪談ならではの面白さ

 

 

青柳:チビルさんの話って、従来の怪談師が切り捨てていた部分だと思うんです。カンパチの話にしても、代表作である椅子や柱時計の話にしても、怖いかというと別に怖くはないですよね。

 

松村:それは先輩のイタコ28号(※4)さんとか吉田悠軌(※5)さんとかにもよく言われます。僕は基本的に、何かしら不思議なことが起こっていれば全部怪談だと受け取るようにしているんですよ。

 最近ネイリストさんに聞いた話ですが、その人のお客さんに魔女がいるらしくて、「中目黒には河童がいるわよ」と教えてくれたそうなんです(笑)。そういう話も怪談にカウントしているので、ちょっと他の人と違う感じになっているのかもしれません。

※4現在の怪談ブーム黎明期から活躍する怪談師にして「怪談ソムリエ」
※5怪談研究家、怪談作家。詳しくは前作『怪談青柳屋敷』刊行記念対談記事を参照

 

青柳:でもそういう突飛な話こそ、実話の面白さですよね。創作怪談だとつい、忌まわしい呪いとか因縁をくっつけてしまいたくなる。逆にカンパチが消える話なんかは、フィクションだったら絶対「だから?」と言われてしまう(笑)。

 

■謎を謎のまま放っておけるのが怪談の魅力

 

松村:性格的にひねくれているので、こう来るだろうという予想を裏切りたいんですよ。チビル松村なんていう変な名前にしたのも、そこらへんにいそうなお兄ちゃんが、こういう名前だったら面白いかなという狙いがあったりしますし。普段ミステリを書かれている青柳さんが、怪談を書くのもある意味ギャップですよね。

 

青柳:読者にどう思われているのか正直分からないんですが、自分の中ではいいリフレッシュになっていますね。ミステリは不思議なことに理屈を付けないといけないんだけど、怪談は謎を謎のまま放っておける。理屈を付けると、怪談らしさがなくなりますからね。

 

松村:考察することで面白くなる怪談も一部にはありますけど、僕はあまりそっち方面には興味がないんです。青柳さんの怪談も、不思議な出来事をぽんと読み手に提示するタイプの怪談で、読んでいて心地よかったです。

 

青柳:読んでくださってありがとうございます。

 

■読むとつられて怪談を語りたくなる作品

 

 

松村:『怪談青柳屋敷』も『怪談青柳屋敷・別館 踏切の少女』も読ませていただきました。読んでいて思ったのは、怪談会に参加しているみたいだなと。つられて怪談を話したくなるんですよ。『踏切の少女』に「溺れている人」という話がありますよね。

 

青柳:夢の中に溺れている人が出てきて、助けて助けてと訴える。お墓を開けてみたら骨壺が水に浸かっていた、という話ですね。

 

松村:あれによく似た話があるんですけど、披露していいですか(笑)。僕は普段、会社員をしているんですが、以前とある会社に出向している時の先輩に韓国出身の方がいて、その人に聞いた話です。その方の出身地は土葬の風習があって、ご先祖が山の敷地に埋められているらしいんですね。ある時、その方のお母さんの夢に死んだお祖父ちゃんが出てきて、寒い、寒いと訴える。気になってお墓参りに行ってみると、お祖父ちゃんの棺桶が地下水に浸っていたという話です。

 

青柳:ああ、確かによく似ていますね。

 

松村:それから、3行くらいの短い怪談も入っているのがツボでした。僕もこういう短い怪談が好みなので。

 

青柳:聞いた話はせっかくなので全部書こうと思って入れています。それに長い話ばかりだと、読んでいて疲れますからね。時々短い怪談が挟まっていると、いい感じの緩急がつくんです。

 

■怪談は長さじゃなくてエッジの鋭さ

 

松村:怪談は長さじゃないですよね。現象の尖り具合によっては、長い怪談よりもインパクトがあったりしますし。

 

青柳:チビルさんの持っている怪談で、一番短い話といったら?

 

松村:ギャルの子が学校帰り、人が宙に浮いているのを見た、っていう話です。その人は「フライングヒューマノイドだ」って言っていたんですが、その解釈も含めていい怪談だなと(笑)。

 

青柳:(笑)。チビルさんはプロだから、さすがにこれは使えないという怪談もありますよね。

 

松村:そうなんですけど、いつか使える日がやって来るんです。すごく短い話でも、その土地の別の怪談と繋がることで、壮大な物語の一部になったり。だから短い話でも、必ず記録するようにはしています。

 

(後編)に続きます