大石大さんの『恋の謎解きはヒット曲にのせて』は、なぜ失恋したかを推理する連作短編集だ。時代ごとのヒット曲や社会情勢を織り交ぜながら、物語は展開されていくが、そのなかにAKB48の大ヒット曲『フライングゲット』も入っている。今回は選抜メンバーとして同曲を歌った元メンバーであり、昨年『おかえり、めだか荘』で作家デビューもした俳優・北原里英さんをお招きして大石さんと対談していただいた。小説や曲に対する2人の思いとは――。後編では作家デビューも果たした北原さんと小説のつくり方について語っていただきます。
取材・文=円堂都司昭 撮影=武田敏将
男性なのに主人公の女性の気持ちがリアルに書かれていてすごい
大石大(以下=大石):北原さんの『おかえり、めだか荘』も面白く読ませていただきました。すでに取り壊しが決まったシェアハウスで、反目しあったり心を通わせたりする4人の女性の楽しい空間が魅力的に描かれていました。それにしても、取り壊しの理由がリニア開通というのは、現時点では大胆というか……。
北原里英(以下=北原):小説を書いたことはなかったんですけど、担当編集の方が「北原さんはルームシェア経験が豊富なのでその話なら書ける」と勧めてくださったんです。それで偶然、リニアの停車駅になる場所に住んでいるスタッフさんに話を聞いて、ヒントをもらいました。でも、調べたら停車駅になるのはわりと未来で、開通する前に書き終わっちゃった(笑)。
大石:小説の前にはコントの脚本を書いたことがあったんですよね?
北原:身内のAKBコンサートでやるものでしたけど、前から創作は好きだったんです。もともと本を読むのが好きでしたし。でも、文章を書けるとは思われていなかったらしくて、コラムやエッセイのオファーなどなかったので、小説を書く機会をいただけた時は嬉しかったですね。
大石:4人の女性それぞれの視点から各章が書かれていますけど、1章から順番に書いたんですか。
北原:3章から書きました。一応、キャラクター設定や起承転結は用意したんですけど、結婚がテーマの3章が一番手をつけやすかったので最初に書いて、全部できてからそこを直しました。
大石:初めての小説で1冊をここまで書けるのかと驚きました。僕はデビューまで何作も応募して落選を繰り返したので、本当にうらやましい。俳優が本業でしょうけど、演じることと書くことは関係がありますか。
北原:あまり関係ない気がします。私はどちらかというと客観的なタイプだし、小説にはそれが生きているように思います。『おかえり、めだか荘』は、30歳手前の女性たちを描いていて、わりと自分と等身大ですけど、作家さんは性別を超えて書けるじゃないですか。『恋の謎解きはヒット曲にのせて』も男性が作者とわかったうえで読みましたけど、女性の気持ちがリアルに書かれていてすごいと思いました。
大石:僕は書くうえでは男だから女だからとは、あまり意識していません。同じ人間なので理解できる部分はある程度あるはずだと思って、その範囲内で書いているので、そう言っていただけるとちょっとほっとします。
北原:私は、小説はまだ1作目で自信が持てない状態でしたけど、2章の舞台に立った時の感情については、芝居を観たり取材したりはできても、実際に経験した作家さんはあまりいないでしょう。でも、私は1ヵ月稽古して初日に入り、千秋楽を迎えたことがあって舞台を知っているので、そこは自信が持てました。
大石:これからも小説は書くんですよね?
北原:その点をお聞きしたかったんです。作家の方に会うことはなかなかないので、今日みたいな機会をいただけたのはありがたいです。どういう風に次の作品を書くんですか。
大石:難しいですね。僕は、自分の本を1冊書き終わる間にほかの人の小説や映画に触れると、内容をこうアレンジすれば新しい話ができそうだとなることが多いんです。それで次を書こうと思うんです。
北原:私の場合、『おかえり、めだか荘』のタイトルのもとになったシェアハウスの甕にいるめだかは、書き終わる頃に思いついて後から原稿に追加したんです。タイトルはどうやってつけているんですか
大石:『恋の謎解きはヒット曲にのせて』は、単行本も文庫も、タイトルは編集者の方に考えていただきました。
北原:私はタイトル決めに苦しみすぎて、次に書くやつは逆にもうタイトルだけ決まっています
大石:今、次の作品の原稿を直しているんですが、僕もタイトルは決まっています。今回は僕の発案で、既存のフレーズをちょっともじったものですけど、タイトルには自信があります。夏くらいに出る予定です。
北原:私は次の小説がいつになるかまだ見えないですけど、今日こうしてお話していたら、とても書きたくなりました。
大石:そういってもらえると嬉しいですね。
北原:ありがとうございました。
【あらすじ】
『恋の謎解きはヒット曲にのせて』31歳、独身の綾は過去の恋愛で、ことごとく理不尽なフラれ方をしていた。そんな綾が行きつけのバーでママのみひろ相手に過去の失恋話をしていたところ、大学教授を名乗る常連客の男に話しかけられ……。淡い恋も哀しい恋も喜びの瞬間も……そこには、いつも心に響くヒットソングがあった。そんな曲にのせて社会学や心理学を使い”失恋の真相“を解き明かす連作ミステリー。