連続殺人の舞台は、人気VRゲーム《ドラゴンズ・グレイブ》内でのイベントと現実世界。
町田市郊外で発見された身許不明の焼死体。その事件を追うのは、捜査一課の刑事と所轄の女刑事のコンビ。一方、VRゲームの連続殺人の謎に挑むのはひきこもりの元警官。同時進行で描かれる2つの連続殺人の謎に3人が迫っていく──。
作家デビュー30周年を迎えた貫井徳郎の最新刊は、〈VRゲーム+警察小説〉という二重構造の傑作本格ミステリーだ。
「小説推理」2024年1月号に掲載された書評家・細谷正充さんのレビューで『龍の墓』の読みどころをご紹介します。
■『龍の墓』貫井徳郎 /細谷正充[評]
元警官がプレイするVRゲームの殺人事件クエストと、所轄の刑事が追う現実の殺人事件。虚と実の事件がクロスしたとき、意外な真相が浮かび上がる。
近年、VR(バーチャル・リアリティ)世界を題材にしたミステリーが増加している。「小説推理」に好評連載された『龍の墓』も、そのひとつといっていい。ただし作者が、ベテランの貫井徳郎だ。VR世界と現実世界の絡ませ方が秀逸であり、実にユニークな作品になっているのである。
理不尽な悪意に追い詰められ警官を辞めた瀧川は、剣と魔法の世界を舞台にした《ドラゴンズ・グレイブ》という、VRのオープンワールドRPGに熱中し、引きこもり気味になっていた。ある日、赴いた領主の屋敷で殺人事件クエストが発生し、瀧川は謎を解こうとする。
一方、現実の世界では、空き地に置かれたドラム缶の中から焼死体が発見される。おそらく殺人事件だろう。町田警察署の保田真萩は、警視庁捜査一課の南条と共に、地道な捜査を続ける。だが、都内の別の場所で新たな殺人が発生し、ネットではゲームの殺人事件クエストを準えた、見立て殺人ではないかと騒がれる。真萩から連絡を受けた瀧川も、現実の事件のことを知り、連続殺人に発展したクエストにのめり込んでいくのだった。
はっきり書いていないが、本書の舞台は近未来だろう。VR技術の進歩により、人々の生活様式はかなり変化している。だが、刑事のやることは変わらない。被害者の身許を明らかにし、関係者を当たりながら、事件の核心に迫っていくのだ。つかみどころのない南条と組まされた真萩の捜査に、警察小説の魅力が凝縮されている。
ところがゲームの殺人事件クエストは、パズラー仕立てである。魔法のある世界なので、特殊設定ミステリーの要素もあるが、謎解きは論理的。伏線もガッツリと張られている。第2の殺人の凶器が判明したときなど、「ああ、そういうことか!」と声を上げてしまったほどだ。プレイヤーへのメッセージという形で“読者への挑戦状”まで出てくるので、本気でトリックと犯人を推理してみてはいかがだろうか。
本書が素晴らしいのは、その殺人事件クエストが、現実の連続殺人事件と密接な関係を持つことである。犯人は、なぜ見立て殺人を行ったのか。ここに大きな仕掛けがある。犯人の意図が暴かれたとき、「えっ、そういうことだったの!」と驚愕してしまった。これは凄い。
さらにネット時代の正義と悪意の問題も、ストーリーを通じて表現されている。特殊設定パズラー×警察小説という、とんでもないミステリーなのだ。