シリーズ累計10万部突破! 読めば前向きになれる不思議なパワー小説と話題のワンダフルストーリーに、待望の第3弾!
出会えたらラッキーな犬、No.ワン! これはもしや、犬そのものがパワースポット!? マジックという名の迷い犬がある日ひょっこり現れて、なりゆきで一緒にいるだけで、みんな自然とシンプルだけど大切なことを思い出す。そう、今そこにある幸せに気づかせてくれる迷犬、それがマジック!
書評家・細谷正充さんのレビューで『迷犬マジック3』の読みどころをご紹介します。
■『迷犬マジック3』山本甲士 /細谷正充[評]
マジックに出会ったことで、自分が変わり周囲も変わる。周囲が変われば世界が変わる。いつの間にか曇り空が晴れ、登場人物たちは前に進み出す。
黒柴ふうの中型犬。赤い首輪にはマジックで“マジック”という名前が書かれている。「人生曇り空」の人々の前に現れて、ささやかな奇跡をもたらす、あの迷犬が帰ってきた。山本甲士の人気作「迷犬マジック」第3弾の登場である。
本書には短篇4作が収録されている。冒頭の「菜の花」は、煤屋貴士という大学生の若者が主人公。やり投げのオリンピック強化指定選手だったが、交通事故により左ひざを骨折して夢を絶たれてしまう。おまけに就職先も、内定取り消しになった。再起の気持ちを持てなくなった貴士は、宅配便の集配センターでバイトをしている。だが、マジックと出会ったことで彼は変わる。マジックをフィジカルトレーナーに見立て、森林公園でトレーニングを始めたのだ。そして、バイト先の煩わしい人間関係も変わっていくのだった。
マジックが何を考えているのか、本当のところは分からない。ただ、彼(雄である)と出会った貴士の気持ちは前向きになった。しかも貴士が変わることで周囲も変わる。周囲が変われば世界が変わる。いつの間にか曇り空が晴れ、貴士は前に進み出す。シリーズの愛読者にはお馴染みの、心楽しい物語が堪能できるのだ。
なおマジックは、前作に登場した原屋敷家で世話になっている。しかし紐で繋がれてはおらず、フラフラとどこかに行っては、数日帰ってこないことがよくあるそうだ。相変わらずの迷犬ぶりである。
ということで、続く「ツツジ」では会社の上層部の無理解にストレスを強める技術職女性社員、「アジサイ」では小学5年生のコロッケ店の娘、「コスモス」では市長の命で作られたオブジェのクレームに悩まされる市役所職員の前に、ひょいとマジックが現れる。それぞれに鬱屈を抱えた人々を、なんとなく明るい方向に導いてしまうマジックの存在は、まさにマジックというべきだろう。どれも予想外のストーリーにワクワクさせられるが、特にラストの「コスモス」のエスカレートしていく状況には笑わせてもらった。
また、話が進むにつれて、登場人物が微妙に絡み合っていく。マジックを中心にした、幸せな輪の広がりに、読んでいるこちらまで嬉しくなってしまうのである。できればシリーズを最初から読んでほしいが、本書からでも問題なし。未読の人にも迷わず薦められる作品だ。