〔マジック〕に会いたい! と多くの声が寄せられ、ロングセラーとなっている人気作に待望の最新刊!
心配事、後悔、孤独感……心にモヤモヤを抱えながら生きる人々の前に、ひょっこり現れる迷い犬〔マジック〕。保護のつもりで一緒にいると、ふとしたきっかけから気持ちが前向きになったり、いつの間にか人生が好転していたりする──読むとじんわり元気が出る、痛快ワンタスティック小説!
書評家・細谷正充さんのレビューで『迷犬マジック2』の読みどころをご紹介します。
■『迷犬マジック2』山本甲士 著 /細谷正充:評
マジックという名前の犬を、ご存じだろうか。黒柴ふうの、オスの中型犬。赤い首輪をしていて、そこに“マジック”と書かれているので、そのように呼ばれる。口の両端をにゅっと上げて、笑うような顔になる。特殊な力があるようで、ちょっと日常生活に問題や蟠りを抱えた人の前に現れ、人生を良い方向に導くと、いずこかに去っていくのである。
などと書いているが、私がマジックのことを知ったのは、それほど昔のことではない。山本甲士が2021年9月に文庫書き下ろしで刊行した『迷犬マジック』で初めて出会い、たちまち魅了されてしまったのだ。本書は、そのマジックと関わった人々の物語を綴った、シリーズ第2弾だ。前作と同じように、春夏秋冬に分けた四つの短篇が収録されている。
冒頭の「春」の主人公は、小学4年生の賢助だ。警察官だった父親は病気で亡くなっており、母親は材木置き場で働く重さんという男性との再婚を考えている。再婚に反対する気のない賢助だが、毎日のように自分と母の暮らすアパートに来る重さんと馴染むことができない。また、2人の親友との生活格差や、サッカークラブに入るかどうかも悩みの種だ。そんな賢助の前に、マジックが現れた。迷い犬だと思い、飼い主が見つかるまで、重さんの家で面倒を見てもらうことになった。それが切っかけになり、賢助は重さんを理解するようになり、しだいに明るい方向に歩み出していく。
特殊な力があるといっても、マジックは凄いことをするわけではない。ただ、マジックの存在と行動によって、賢助は重さんと親しくなっていく。きっと人間には、誰だって良い方向に行こうと思う心がある。だけど、さまざまな事情や感情が邪魔をして動けない。マジックは触媒となり、その心を動かすのだ。しかも賢助が変われば、周囲も変わる。少年の日常が、しだいに輝いていく様子が、気持ちいい読みどころになっているのだ。
以下、「夏」の会社をクビになった前科者、「秋」の徒歩旅行をする元警察官、「冬」のひとり暮らしをする老婆も、それぞれマジックに導かれ、良き方向に歩み出す。まるで西部劇の主人公のように、ふらりと現れ、何事かを解決し、いずこともなく去っていく。それが不思議な犬というのが、たまらなく楽しい。各話が微妙にリンクしているのも、要チェックの趣向だ。ひとりでも多くの人に読んでもらいたい現代ファンタジー。このシリーズそのものが、優れた“マジック”なのである。