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「不思議を不思議のママ終わらせていいのが、怪談の魅力です」(青柳)、「同じ不思議を書いているという点で、怪談とミステリはコインの裏表と言えますね」(吉田)──ミステリ作家・青柳碧人が学生時代から蒐集してきた「本当にあった怖い/不思議な話」49篇をまとめた実話怪談短篇集『怪談青柳屋敷』刊行記念対談の後篇は、怪談の魅力や、怪談とミステリの意外なつながりなど、さらに深い話へと……。

取材・文=編集部 撮影=宮本賢一

 

■『怪談青柳屋敷』は“律儀な”怪談?

 

──今回の『怪談青柳屋敷』、吉田さんはどんな印象を抱かれました?

 

吉田悠軌(以下=吉田):よかった、このまま本の話をしないで終わるのかなって心配してたので(笑)。やっぱり、読みやすいのはもちろんですが、新鮮でしたね。われわれとは書き方が違うんで。

 

青柳碧人(以下=青柳):新鮮? というと?

 

吉田:実話怪談はよくも悪くもいくつかの「定型」があります。また読者、実話怪談をよく読む人とのある種の共犯関係というか「ここは書かなくてもわかるよね」というところ、われわれ書き手が無意識にすっ飛ばすところもありますが、そこもきっちり書いていて。そういう意味でも定型から外れているというか。

 

青柳:いま言われてハッとしたんですが、たとえば、具体的にはどの辺ですかね?

 

吉田:たとえば、金縛りとか霊能者といった言葉をあまり使わないんですよね。たとえ体験者がそう語ったとしても、イメージが固定化されたり、書き手が意図しない方向に勘繰られたりするので。でも、青柳さんはその辺もきっちり書いている。そういう意味で、誠実だし、いい意味で理知的なというか……律儀ですよね。

 

青柳:律儀(笑)。その感想は予想してなかった。でも吉田さんが「定型」とおっしゃいましたが、実話怪談ってやっぱり独特のリズムがあるな、というのは意識していました。ただ、そのスタイルが絶対ではないし、違うようにしようかなとも考えていましたね。

 

青柳碧人氏

 

吉田:そういう律儀さは、わたしたち怪談作家が見失っている点というか(笑)。……やっぱり、青柳さんはミステリ作家というスタンスがあるし、ちょっと立ち位置が違うというか。ただ、その律儀なところは、たぶん読んでいる人も納得してくれると思いますよ。

 

■怪談とミステリはコインの裏表?

 

──ミステリ作家としてのスタンスとか、怪談とミステリという比較について青柳さんの中ではどういう違いを感じていますか?

 

青柳:怪談ってミステリと違って、不思議を不思議のまま終わらせていいのが心地いいというか、魅力なんですよね。

 

吉田:そういう怪談のある種のロジックの無さは意識されているんですか?

 

青柳:そうですね。僕はミステリが仕事だから、どうしても話やオチをちゃんと作らなければいけないんだけど、怪談はポッと終わらせていいじゃないですか。

 

吉田:そう、物語としては結末、解決があっても、なぜ、その現象が起きてそういう体験をしたかは解明できないのが怪談の面白さで。逆に、モルグ街の殺人とか金田一シリーズとか、江戸川乱歩とか、どんなに怪奇でオカルトでも解決される面白さがミステリですよね。

 

吉田悠軌氏

 

青柳:同じ不思議を描くにしても、ミステリは答えを書かなくちゃいけない。しかも、それが犯人にとっても最善の方法じゃないといけない。そういうことを考えるのが仕事だとつらいなと思う時も……(笑)。その点、怪談は不思議を不思議のまま書けるというのがね。

 

吉田:同じ不思議を書いているという点では、実話怪談とミステリってコインの裏表ですよね。不思議というものに解決を求めるか否かでは正反対だけど、同じコインではある。近代怪談とミステリって、たぶん同じ頃に生まれて離れていった兄弟みたいなものかもしれませんね。

 

■『怪談青柳屋敷』の“律儀さ”の原点は意外なところに?

 

──そう考えると、ミステリ作家の青柳さんが今回、怪談を書いたのも自然な成り行きという感じがしますね。

 

吉田:ミステリと怪談の共通点ということなら、さっき怪談の定型だと説明をすっ飛ばすところがあると言いましたけど、ミステリやSFなども門外漢が読むと割と同じように説明を省略するところがありますよね?

 

青柳:はいはい、ミステリなんか特にそうですよ。でも、それが嫌でね。僕は説明飛ばさないで全部書くんですよ、だから。

 

吉田:あ、なるほど。じゃあ、青柳さんはもともとそういう気質があったと。

 

青柳:自分でも思ったんですけど、それ、塾講師の発想なんですよ。何か物事を知らない子にはきちっと説明したいなという気持ちがずっとあって。よく僕の本は「初心者が読んでも云々」という感想を貰うんですけど、難しいものを難しいまま伝えたくないという気持ちが染みついているんでしょうね。

 

吉田:ほら、やっぱり看破してたじゃないですか。『怪談青柳屋敷』の“律儀さ”はそこに繋がるワケですよ。私の慧眼ですね(笑)。

 

青柳:確かに(笑)。吉田さんがそう評してくれたのは、たぶん、そういうことをちゃんと説明しようという気持ちが僕の中にあったのを見抜かれたんでしょうね。そう、だから今回の作品も、怪談を知らない人、全然怪談とか読まない人が読んでも面白いなと思えるものを書きたかったんですよね。

 

【あらすじ】
『むかしむかしあるところに、死体がありました』『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う』などで人気のミステリー作家、青柳碧人。じつは怪談好きだったのです。これまでひそかに取材採集した実話怪談の数々。文字どおり家にまつわる怪談から自ら体験した怪異、出版業界で耳にした恐怖体験など一挙49篇を収録。

 

青柳碧人(あおやぎ・あいと) プロフィール
1980年千葉県生まれ。早稲田大学卒業。2009年『浜村渚の計算ノート』で第3回「講談社Birth」小説部門を受賞してデビュー。19年刊行の『むかしむかしあるところに、死体がありました。』は多くの年間ミステリーランキングに入り、本屋大賞にノミネート。『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』は23年9月にNETFLIXで映画公開が決定している。「猫河原家の人びと」シリーズをはじめ多数のシリーズ作品のほか、『名探偵の生まれる夜 大正謎百景』、『クワトロ・フォルマッジ』など著書多数。

 

吉田悠軌(よしだ・ゆうき) プロフィール
1980年東京都生まれ。怪談作家、怪談研究家。早稲田大学卒業後、ライター・編集活動を開始。怪談サークル「とうもろこしの会」の会長をつとめ、怪談の蒐集と語り、さらにはオカルト全般の研究をライフワークとしている。伝説的なオカルトスポット探訪マガジン『怪処』の刊行や、「クレイジージャーニー」(TBS)では日本の禁足地を案内するほか、月刊ムーでの連載やYouTubeなど各メディアで活動中。著作に『中央線怪談』、『現代怪談考』、『一生忘れない怖い話の語り方』、『禁足地巡礼』、『一行怪談』、『煙鳥怪奇録』(共著)など多数。