百花輪の儀は佳境を迎え、残る貴妃は黄金妃・星沙、翡翠妃・玉蘭、そして芙蓉妃・來莉の3人となった。しかし華信国に、隣国である神凱国の脅威が迫る。戦火を前に目まぐるしく変わる後宮内の勢力図。來莉と明羽は国の危機を救い、百花皇妃の座を掴みとることができるのか――。絢爛豪華な中華後宮譚、完結を記念して著者の瀬那和章氏に文庫未掲載のあとがきを特別に寄稿してもらった。
「後宮の百花輪」を書くときに影響を受けた作品とは
私が双葉社で初めてリリースさせていただいた、初めての後宮小説。これまでの作家人生で何作がシリーズを書かかせていただきましたが、思い描いたところまでキャラクターを連れていけないことが多く、本作は初めて当初の構想通りに物語を終わらせることができました。そんな初めてづくしの物語が「後宮の百花輪」です。
小説を書く時は、どうしても様々なものの影響を受けます。過去の経験だったり、最近出会った人だったり、面白かった作品だったり。
今回は、完結記念に、後宮の百花輪の影響を受けたものについてお話したいと思います。
後宮の百花輪のテーマの一つが、裏切ることでした。
影響を受けた作品としてまず思い浮かぶのが、HBOのドラマ、『ゲーム・オブ・スローンズ』です。後宮でデスゲームをやろう、と考えたのも、このドラマがきっかけでした。覇権を争う一領四州も、各州が持つ州訓も、このドラマがモチーフになっています。『ゲーム・オブ・スローンズ』はすごい物語です。見る者をこれでもかというくらい裏切ります。オーラ全開の強キャラがゴミのように死に、大事に育ててきた味方キャラがゴミのように死にます。ヘイトキャラの金字塔を打ち立てたラムジーも忘れてはなりま――あー、失礼しました、自作の話に戻ります。とにかく、後宮にキャスタミアの雨を降らすことを目標に書いて参りました。さすがに雨は降りませんでしたが、これまでの私の作品の中でもっとも刺激的で裏切りに満ちた作品になったと自負しています。
これまでに出版された多くの後宮小説にも影響を受けています。ブーム初期から後宮小説を愛読してきました。佳麗にしてグロテスク。後宮。その二文字だけで浮かび上がる、どうしようもなく惹かれる裏切りに満ちた世界観。後宮小説というジャンルを切り開いた先輩作家の皆さまには頭が上がりません。
そして、この物語には、私が人生で経験してきた信頼と裏切りがつまっています。裏切ってこそ、裏切られてこその人生です。日常と、感動や驚きや怒りや笑いや憎しみの間には裏切りがあり、人は裏切られるために物語の読むのです。
編集部から、本作はシリーズ通して離れた読者が少ないと教えていただきました。ここまで書き続けることができたのは、作品を読み続けてくださった読者の皆さまのおかげです。どうか、明羽と來梨の戦いを、最後まで見届けてください。そして、もし最終巻が皆さまの心に残るラストであったのなら、どうか、近くにいる方に面白い後宮小説があるよ、と伝えてください。一人でも多くの方に手に取っていただきたいのです。
ここまで本作を離シリーズせずに読み続けて下さった読者の皆さま、本シリーズになくてはならない美しい扉絵を描いてくださった七原しえ様、編集の細田さま、双葉社の皆さま、本作を支えて下さったすべての方、すべての物語、そして、すべての裏切りに感謝します。
これからも皆さまの人生に、素敵な裏切りがありますように。
瀬那和章