住野よるの第9作、『腹を割ったら血が出るだけさ』は、これまでの住野作品とは異色の読み心地だ。

 心を鷲づかみされるような登場人物の魅力はそのままに、「偽りの自分」と「本当の自分」について、過去最大人数ともなる登場人物の数だけ、それぞれの考え方が存在し、時に激しく衝突し、時に知らないうちに影響を及ぼし合う。

 生きていく上でわたしたちは何人もの他者と出会うが、誰かと人生が交差するときの痛みと喜びの両方が、この作品に詰め込まれている。

 もう一度「小説を好きになるために」書いたというこの物語の中で、住野よるがどんなことを思い抱いていたのか、より深く話を聞いた。

 

前編はこちら

 

■周囲からの評価ではなく、自身の感性に従って決めようと思った

 

──住野さんは執筆される時に、いくつかの書くべき場面を決め、そのチェックポイントを通っていくように物語を進めてていくとうかがいました。事前の構想と、書き終わったあととで、変わった点などはありますか?

 

住野よる(以下=住野):チェックポイントは増えてはいても減ってはいないのではないかと思います。始まりとラストのシーンは小説を書き始める前段階からありました。

 

──作中で特に思い入れのあるシーンや、苦労したシーンがあれば教えて下さい。

 

住野:作中で思い入れのあるシーンは全てですが、あえて選ぶとすると、後藤樹里亜と高槻朔奈が出てくるインパチェンスのシーンです。モデルになってくださった綾称さんと高井つき奈さんのかっこよさに樹里亜と朔奈がちょっとでも近づけていれれば嬉しいです。

 

──今回のタイトル『腹を割ったら血が出るだけさ』は、文字通りにも、比喩的な意味にも、様々な解釈をすることができそうです。こういった印象的なタイトルは、どのようにして決められるのでしょうか。

 

住野:タイトルを決めるタイミングは様々にあると思います。例えば『君の膵臓をたべたい』は最初からタイトルだけがあったり、『よるのばけもの』は書き終わってからタイトルを決めたり。その中で今回の『腹を割ったら血が出るだけさ』は書いている最中にアイデアとして出てきたものを、最終的なタイトルとしました。実はかなり初期段階で出ていた案だったのですが、流石にグロいかなと思い担当さんに伝えないでいました。

 

──それでもこのタイトルに決めた理由とは?

 

住野:とある好きなアーティストのライブを観ている最中、この人達は自分達がかっこいいと思っていることを信じているんだなと心底感じ、自分も周囲からの評価ではなく自身の感性に従って決めようと思い、このタイトルになりました。

 

──今回の装画は、房野聖さん(@gumi_seijin)が担当されました。細密な花と少女のイラストが大変美しい絵ですが、住野さんの感想はいかがですか?

 

住野:本当に素晴らしい表紙です!房野さんのイラストをきっかけに今作を手に取ってくださった方が何人もおられると聞きました。物語と一体のものとして素敵なイラストを細かく仕上げてくださったことに感謝の思いしかありません。

 

──最後に、これからどんな作品を書いていきたいですか?

 

住野:まだやってないことしたいです。その気持ちはずっとあります。ホラーもサスペンスもパニックものもまだまだ扱ってないテーマや要素がたくさんあるので、色んなことに挑戦し続けていきたいです。ひとまず次の一冊は、読者さんの心をキュンキュンさせてえ一心で書きました!

 

──ありがとうございました。

 

【あらすじ】
高校生の茜寧は、友達や恋人に囲まれ充実した日々を送っている。しかしそれは、「愛されたい」という感情に縛られ、偽りの自分を演じ続けるという苦しい毎日だった。ある日、茜寧は愛読する小説の登場人物、〈あい〉にそっくりな人と街で出逢い──。いくつもの人生が交差して響き合う、極上の青春群像劇。

『腹を割ったら血が出るだけさ』試し読み
https://colorful.futabanet.jp/articles/-/1515

 

住野よる(すみの・よる)プロフィール
高校時代より執筆活動を開始。2015年『君の膵臓をたべたい』でデビュー。同作で2016年「本屋大賞」第2位、Yahoo!検索大賞“小説部門賞”など、数多くの賞を受賞した。著書に『また、同じ夢を見ていた』『よるのばけもの』『か「」く「」し「」ご「」と「』『青くて痛くて脆い』『この気持ちもいつか忘れる』、「麦本三歩の好きなもの」シリーズなど。ライブハウスと書店が好き。