11月10日に『黒と誠~本の雑誌を創った男たち~』が発売された。本作は、1976年に創刊され、現在も続く書評誌「本の雑誌」の草創期を描いた漫画作品だ。目黒考二の『本の雑誌風雲録』、椎名誠の『本の雑誌血風録』を合本にした『社史・本の雑誌』(本の雑誌社)を原作に、漫画『どくヤン!』で知られるカミムラ晋作が新たに綿密な取材を行ったうえで「本の雑誌」サーガを作り上げている。

今回は『黒と誠』の発売記念として、現在の本の雑誌社員による座談会を開催。全4回でお送りする。
(取材・文/菊池俊輔)

 

【座談会出席者】
浜本茂…「本の雑誌」の発行人・編集長
杉江由次…営業担当
松村眞喜子…「本の雑誌」の編集担当
浜田公子…事務全般担当
前田和彦…単行本の編集担当

 

──最初に『黒と誠』を読んだ感想についてお願いします。

 

浜田:もう嬉しくてね。本当に更新日が待ち遠しくて。2つの話(『本の雑誌風雲録』『本の雑誌血風録』)を合体させて、こんなにちゃんとした物語になるとは思わなかった。しかも、椎名(誠)さんも目黒(考二)さんも若くてカッコいい。

 

杉江:俺たちが最初に目黒さんに会ったのは25年前の入社のときで、目黒さんは40歳を過ぎていたんだよね。椎名さんの若い頃はメディアを通じて知ってるけど、目黒さんの若い頃は写真でしか知らないから……。

 

浜田:目黒さんは若い頃の写真をいつも隠し持っていて、「俺の若い頃は痩せてて凄かったんだよ」「俺にもこういう頃があったんだよ」って。

 

松村:確かに『黒と誠』に出てくる目黒さんはすごくトガってて、ただならぬ人じゃない?

 

浜田:でも、私たちから見たら、いつも変な半ズボンみたいなの履いてるしねぇ。

 

杉江:首にタオル巻いた、ただの町のオヤジだからね(笑)。

 

浜本:マンガの中でも最初は本当にダメ男だったのが、途中からすごくちゃんとした社会人っぽくなっちゃって。『黒と誠』のタイトルは『愛と誠』から取ったと思うんだけど、目黒さんと椎名さんの、2人のあの関係性を、よく読み解きましたよね。

 

杉江:目黒さんは「椎名はおれの裕次郎だ」って言ってるくらいだからね。

 

浜田:石原軍団の渡哲也にとっての石原裕次郎ってことでしょ?

 

浜本:その関係性がマンガから伝わってくるのがすごいよね。

 

──『黒と誠』の椎名さんと目黒さんと、実際のお2人を比べたときに、ここは違うなという部分はありますか?

 

杉江:やっぱり見た目がカッコ良すぎるよ(笑)。

 

浜田:椎名さんも自分でそう言ってましたね。

 

浜本:椎名さんは若い頃から本当にあんな感じで、周囲の人を惹きつけるタイプだったと思いますよ。でも、当時に近い時代を知る者として、目黒さんについてはちょっと承服できないというか……。

 

一同:爆笑

 

──目黒さん自身は「おれはもっと格好良かった」って、別の意味で承服されていないようでしたが(笑)。

 

杉江:椎名さんは、「いつ会ってもカッケーなぁ」っていうのはあったけど、目黒さんをかっこいいとは思ったことは一度もないね(笑)。25年前の入社時から、ただの一度もない(笑)。浜本さんは『黒と誠』の時代の5年後くらいには目黒さんと会ってるわけでしょ? もうああいう感じではなかった?

 

浜本:目黒さんの最初の印象は、青年実業家みたいだったな。喋り方からして、凄くデキる人に見えた。当時は今の半分ぐらいの体型でシュッとしてて、黒いスーツにボウタイをしていて。僕が入った頃はちょうど「本の雑誌」が上り調子の時期だったから。「ああ、この人が作ってるんだ、かっこいいなぁ」って思ったよ、正直。

 

一同:おお〜。

 

浜本:でも、そう思ったのは最初の2か月だけだった(笑)。

 

杉江:あと、沢野(ひとし)さんの描かれ方が絶妙だったね。本人がどう思ってるかわからないけど、あの謎な感じも含めてドンピシャだよ。

 

浜本:雰囲気が似てるっていうか、ほぼ同じだよね。あれは誰が見ても沢野ひとしだよ。『風雲録』や『血風録』の沢野ひとしの描かれ方はデフォルメされてると思われてそうだけど、あれが実像なんだよ。あのまんまの人だってこと。

 

杉江:それがマンガになると文章以上にダイレクトに伝わってくる。

 

松村:椎名さんは沢野さんと付き合いが長いから、「これだから沢野は」みたいに下げて書いているように読めるけど、マンガになると身も蓋もなく真相を書いていることが伝わってきますよね。

 

〈次回〉「本の雑誌」創刊秘話マンガ『黒と誠』刊行記念座談会(2/4)──に続きます。

 

カミムラ晋作
1974年、愛知県生まれ。岐阜大学中退。2005年に週刊少年チャンピオンにて『サイカチ〜真夏の昆虫格闘記〜』(原作:藤見泰隆)で漫画家デビュー。代表作に『ベクター・ケースファイル』(同上)『マジャン〜畏村奇聞〜』『おとうふ次元』(原作:森繁拓真)など。読書するヤンキーを題材としたギャグ漫画『どくヤン!』(原作:左近洋一郎)は、3巻が電子書籍のみでの発売となったが、後に本の雑誌社より『どくヤン!読書ヤンキー血風録』として紙版が刊行された。
ツイッター:https://twitter.com/kamimurake

本の雑誌
1976年に、目黒考二、椎名誠らによって創刊された雑誌。
WEB本の雑誌:https://www.webdoku.jp/

椎名誠
1944年、東京都生まれ。東京写真大学中退。流通業界誌編集長を経て、作家、エッセイスト、写真家、映画監督など多方面で活躍。「本の雑誌」初代編集長。79年『さらば国分寺書店のオババ』でデビューし、その後『アド・バード』(日本SF大賞)『武装島田倉庫』などのSF作品、『わしらは怪しい探検隊』シリーズなどの紀行エッセイ、『犬の系譜』(吉川英治文学新人賞)『哀愁の町に霧が降るのだ』『岳物語』『大きな約束』などの自伝的小説、『風のかなたのひみつ島』『全日本食えば食える図鑑』『海を見にいく』など旅と食の写真エッセイと著書多数。映画『白い馬』では、日本映画批評家大賞最優秀監督賞ほかを受賞している。
椎名誠旅する文学館:http://www.shiina-tabi-bungakukan.com

目黒考二
1946年東京都生まれ。明治大学卒業。評論家、編集者、エッセイスト。1976年、椎名誠らと「本の雑誌」を創刊。2000年12月まで発行人を務める。ミステリー評論家・北上次郎、競馬評論家・藤代三郎の名も持つ。84年『冒険小説の時代』で日本冒険小説協会賞最優秀評論大賞受賞。94年『冒険小説論 近代ヒーロー像100年の変遷』で日本推理作家協会賞評論その他の部門受賞(ともに北上次郎名義)。