『そして、バトンは渡された』で本屋大賞を受賞した瀬尾まいこさんの最新作『夏の体温』。「出会い」がもたらす「奇跡」を描いた3編を収録。いずれもある出会いがきっかけで、主人公が抱くちょっとビターな想いがあたたかく解きほぐされる物語となっている。
入院中の小学生男子の絆、悩みを抱えた大学生男女のリスタート、転校先の中学での新たな一歩……。登場人物たちがみんな愛おしく、思わずエールを送りたくなる。読後、私たちもきっと前向きな気持ちになれるはずだ。
瀬尾まいこさんが紡ぐ小説は、人が人と出会うことによって起きる化学反応や、再スタートを切った姿を描くものが多い。双葉社から2005年に刊行され、2022年の1月にはドラマ化されて注目を浴びたロングセラー『優しい音楽』は、その最たるものだろう。
そして、3月。そんな瀬尾作品の美点がさらによく表れている作品『夏の体温』が刊行された。以下、収録作の各あらすじをご紹介する。
「夏の体温」
夏休み、小学3年生の瑛介は血小板数値の経過観察で1ヶ月以上入院している。退屈な毎日に、どうしたっていらいらは募る。そんなある日、「俺、田波壮太。3年。チビだけど、9歳」と陽気にあいさつする同学年の男子が病院にやって来た。低身長のための検査入院らしい。遊びの天才でもある壮太と一緒に過ごすのは、とても楽しい。でも2人でいられるのは、あと少しだ──。
「魅惑の極悪人ファイル」
容姿にコンプレックスを抱き、内向的な大学生の早智。だが大学1年生の時に発表した小説が文学賞を受賞し、にわかに注目を集める。そして3作目。執筆に苦戦し、それまでの作風とは異なった「悪人」を主人公にした小説に挑む。そのモデルに選んだのが、腹黒いと周りから言われている男子学生、倉橋だった。早智が、倉橋に取材を始めると……。
「花曇りの向こう」
中学生の明生は、中学入学を機に引っ越してきた。小学校からの知り合いの多い中学では、なかなか輪に入ることができない。でもある日、立ち寄った駄菓子屋でクラスメートの男子と鉢合わせする。
中学国語教科書に掲載された掌編で、瀬尾さんの単行本には未収録だった作品。カバーイラストを手がけたカシワイさんの描き下ろし挿絵付き。
いずれの作品も、登場人物たちの振る舞いに胸がきゅんとなったりほっこりしたり、ちぐはぐな会話にくすっと笑えたりもどかしくなったり、ページをめくっている間に、すっかり瀬尾ワールドの虜となってしまうだろう。
なかなか人に直接会えない今、物語の中で、出会いがもたらす「奇跡」を目の当たりにしてほしい。この物語との出会いが、きっとあなたにとっての「奇跡」ともなるはずだ。
▼表題作「夏の体温」の試し読みはこちらから
瑛介が味わうかけがえのないひと夏の経験。その始まりを予感させる冒頭を公開!
https://colorful.futabanet.jp/articles/-/1247
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https://colorful.futabanet.jp/articles/-/1230
(※紀伊國屋書店横浜店のWebサイン会は締め切っております。)
▼書評家・大矢博子さんによる『夏の体温』ブックレビュー
比べるのでもなく閉じるのでもなく、その人がその人であること、それ以上に大事なことはない。すべての人の生き方を優しく肯定する作品集 『夏の体温』瀬尾まいこ
https://colorful.futabanet.jp/articles/-/1262