『さよならドビュッシー』や『護られなかった者たちへ』など、次々と映像化が続く中山七里。先日発売された新シリーズ第1作『鑑定人 氏家京太郎』が早くも話題となり重版となった。

 新たな主人公は、凄腕鑑定士の氏家京太郎。3人の女性が殺害され子宮を抜かれる猟奇的な殺人事件の容疑者について、弁護士から鑑定依頼を受ける。3人の殺害を立証する検察側の鑑定通知書には違和感があり……。容疑者、検察官、弁護士、科捜研、裁判官──真実をゆがめているのは誰だ? 手に汗を握る展開の果てに、驚愕のラストが待ち受ける圧巻のサスペンス!

「小説推理」2022 年3 月号に掲載された書評家・細谷正充さんのレビューと書籍の帯で、待望の新シリーズ『鑑定人 氏家京太郎』をご紹介する。

 

鑑定人 氏家京太郎

 

鑑定人 氏家京太郎

 

■『鑑定人 氏家京太郎』中山七里  /細谷正充:評

 

猟奇連続殺人事件の犯人が、3件目の犯行を否定した。氏家京太郎は、古巣の科捜研と対立しながら、事実を追う。中山七里、待望の新シリーズ第1弾だ。

 

 中山七里ファンにとって2020年は、お祭りのような年であった。なにしろ新刊の12ヶ月連続刊行という、とんでもなく嬉しいことを実行してくれたからだ。デビュー以来、怒濤の勢いで作品を発表している作者だが、それにしても凄いチャレンジである。さらに以後も、順調なペースで秀作を量産。そんな作者が、新シリーズの第1弾を上梓した。これは期待せずにはいられない。

 文京区湯島にある〈氏家鑑定センター〉は、民間の科学捜査鑑定所だ。所長の氏家京太郎は、警視庁科学捜査研究所(科捜研)のOBである。しかし古巣との関係は悪い。特に、科捜研の黒木康平副主幹とは、同僚時代の因縁があり、犬猿の仲である。そんな氏家が、旧知の吉田士童弁護士からの依頼を受けた。吉田弁護士は、3人の女性を殺し、死姦した後、子宮を奪取した猟奇連続殺人犯として起訴された、那智貴彦の弁護をしている。そして那智は、3人目の犯行は自分ではないというのだ。さっそく事件の試料の再鑑定をしようとする氏家だが、その先には思いもかけない騒動と真相が待ち構えていた。

 3人目の犯行は那智か、それとも別人か。科捜研に事件の試料が何ひとつなく、それどころか鑑定書も一切作成されていないことが判明した時点で、読者の興味が一気に増加する。さらに意外な事実が明らかになったと思ったら、畳みかけるように〈氏家鑑定センター〉が狙われる。京太郎と黒木だけでなく、吉田弁護士と事件を担当している谷端検事も過去の因縁があり、それがストーリーを盛り上げる。こうした物語の組み立ての巧さは、さすがというしかない。次がどうなるか気になって、どんどん読み進めてしまうのだ。

 また、事実の追究にこだわる一方、部下たちを鼓舞激励して育てようとする京太郎が魅力的。DNA鑑定担当の橘奈翔子を始め、部下たちも個性的なようだ。今後の活躍も楽しみである。

 そして終盤の法廷場面を経て、驚くべき真実が暴かれる。作者が中山七里だ。サプライズがあるのは当然と思っていたが、それでもビックリした。ミステリーの面白さも抜群なのである。

 また、中山作品は同一の世界を舞台にしていることで知られているが、本書では『逃亡刑事』の主人公の高頭冴子警部や、「ヒポクラテスの誓い」シリーズの天才法医学者・光崎藤次郎教授などが登場。こうした愛読者向けのサービスも、充実しているのだ。