■『鑑定人 氏家京太郎』中山七里

 

 関東の河川敷で、立て続けに3人の女性の遺体が発見された。いずれも殺された後に子宮を摘出され遺棄されるという、残忍な犯行様態だった。警察の執念の捜査により、現場に残った体液のDNAからある男が逮捕され、事件は解決したかのように思われた。しかし、容疑者・那智は取り調べでこう言い放つ。

「3人のうち2人は殺したが、1人は自分の犯行ではない」

 凄腕の鑑定士・氏家京太郎のもとに舞い込んだのは、そんな奇妙な殺人事件にまつわる鑑定依頼だった。依頼してきたのは、旧知の弁護士。氏家は、世間から忌み嫌われる容疑者の弁護側に立って、彼の裁判に有利な証拠を集めるために鑑定を行わなければならない。

 昨今、科学捜査は、警視庁の科学捜査研究所(科捜研)のみならず、民間の鑑定センターでも行われている。筆跡、毛髪、足跡、DNAなど、扱うものは多種多様だ。

 主人公の氏家京太郎は、民間の〈氏家鑑定センター〉の所長だ。過去に科捜研に所属していたものの、旧態依然とした組織の空気になじめず退官し、最新設備を揃え自身の手で鑑定センターを設立した。古巣の科捜研からは煙たがられているが、本人は飄々として気にしない。

 今回の事件で、検察側は容疑者が3人を殺害したと主張する。しかし、氏家の鑑定では、容疑者の主張通り、3人のうち1人の遺体に付着していたのは別人の体液だと判明した。一体なぜ、検察側はこの事実を認めないのか? 証拠を裁判所に提出しようとする氏家だが、鑑定センターに何者かが押し入り試料が盗まれたり、職員が暴行され鑑定結果の通知書を奪われたりと、何者かの邪魔が相次いで……!?

 手に汗を握る展開に魅了され、鑑定士たちの意地とプライドのぶつかり合いに胸が熱くなる。法廷シーンでは仰天の事実が明らかになるが、そこには社会の歪さが映し出され、人の心の中に巣くう魔物の正体に背筋が凍る。

 容疑者、検察官、弁護士、科捜研、裁判官、鑑定士、真実を歪めているのは一体誰なのか? どんでん返しの帝王が描く、圧巻の鑑定サスペンス!