誰もが読んだことがある日本の昔ばなしをミステリで読み解いた短編集の最新作は『むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。』

収録作品の元ネタは、「かぐや姫」「おむすびころりん」「わらしべ長者」「猿蟹合戦」「ぶんぶく茶釜」。奇抜な事件、キャラクターの立った登場人物は今作でも健在。
むしろ前作を超えてきたとの声が続々集まる、口コミ度、驚き度ナンバー1の傑作だ!

「小説推理」2021年12月号に掲載された書評家・日下三蔵さんのレビューと帯デザインと共に『むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。』をご紹介する。

 

『むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。』帯画像

 

『むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。』帯画像

 

■『むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。』青柳碧人

 

 二年半前に刊行されるやいなやベストセラーとなった著者の『むかしむかしあるところに、死体がありました。』は、一寸法師、花咲か爺さん、鶴の恩返し、浦島太郎、桃太郎と、誰もが知る日本の昔ばなしを、本格ミステリとして再構築する、という趣向の連作であった。

 続く『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』はシンデレラ、ヘンゼルとグレーテル、マッチ売りの少女など、西洋の童話をベースにした作品になっていたが、最新作の本書では、再び日本の昔ばなしが題材に選ばれている。


竹取探偵物語」は、なんとハードボイルドタッチの語り口で驚く。竹取のシゲは、光る竹からかぐや姫を見つけて育てていたが、シゲの子分のヤスの家から火が出て、密室状態の内部からヤスの死体が発見される。誰が? どうやって? なぜ?

七回目のおむすびころりん」 は時間ループもの。隣の米八じいさんがおむすびと一緒にねずみの穴に落ちて宝の袋を手に入れたと知った欲張りの惣七じいさんは、自分も袋を手に入れようとするが、穴の中でねずみが殺された事件に巻き込まれてしまう。だが、謎を解こうとするたびに時間が巻き戻って穴に落ちる前に戻ってしまうのだ。惣七じいさんはループの法則と事件の真相を、同時に解明しなくてはならなくなる……。

わらしべ多重殺人」 では同じ男が何回も殺されるという連城三紀彦の某作品のような謎がまず提出され、それがわらしべ長者の物語と見事な融合を遂げる。

真相・猿蟹合戦」では狸の茶太郎が猿の栃丸から猿蟹合戦の真相を聞く。栃丸はあの事件で殺された猿の南天丸の息子だが、彼は自分の父を殺した真犯人(、、、)に復讐したいと考えていたのだ――。

 最後の「猿六とぶんぶく交換犯罪」 では、今回のシリーズ全体を締めくくる大がかりな謎が用意されている。

 誰でもよく知っている昔ばなしの数々が本格ミステリになっている、という面白さがこの連作の魅力であることは間違いないが、ただそれだけで三十万部もヒットするベストセラーになるはずもない。

 そもそもの着想の秀逸さに加えて、ひとつひとつのエピソードに盛り込まれたトリックの密度の異様な濃さ、つまりミステリとしての質の高さが備わっていればこそ、広汎な読者の支持を得られたのだろう。ミステリ好きならば、読んでソンのない充実の一冊である。
 

 

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https://www.futabasha.co.jp/introduction/aoyagi/index.html