一世を風靡したといっても過言ではない、日本の昔ばなしをミステリーで読み解いた「むか死」シリーズの最新刊にして最終巻がついに文庫化。シリーズ史上最大の謎解きをお楽しみください。

 

「小説推理」2023年10月号に掲載された書評家・日下三蔵さんのレビューで『むかしむかしあるところに、死体があってもめでたしめでたし。』の読みどころをご紹介します。

 

むかしむかしあるところに、死体があってもめでたしめでたし。
むかしむかしあるところに、死体があってもめでたしめでたし。

 

『むかしむかしあるところに、死体があってもめでたしめでたし。』青柳碧人  /日下三蔵[評]

 

「こぶとり爺さん」「三年寝太郎」「金太郎」……。 おなじみの昔ばなしが凝りに凝った本格ミステリへと変貌する人気シリーズ、待望の第3弾、ついに登場!

 

 青柳碧人が『小説推理』に連載した「昔ばなしミステリ」シリーズは、読者の圧倒的な支持を得てベストセラーとなっている。第1弾『むかしむかしあるところに、死体がありました。』が2019年、第2弾『むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。』が21年に刊行され、第3弾の本書は、帯に「驚きの最終巻」とあるから、とりあえず一区切りということなのだろう。

 

 もっとも、「昔ばなし」シリーズと交互に赤ずきんが探偵役を務める「西洋童話」シリーズが連載されていて、20年に『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』、22年に『赤ずきん、ピノキオ拾って死体と出会う。』が刊行されている。こちらの3冊目も、やがて本になるだろう。

 

 童話や昔ばなしを、ミステリやSFに置き替える、という手法には、いくつも前例があるが、青柳作品が卓越しているのは、謎解きの「密度の濃さ」だ。とにかくおなじみのストーリー、シチュエーションをうまく使いながら、これでもかと伏線をちりばめ、ラストで一気にそれを回収するのだ。昔ばなしならではののどかな雰囲気とユーモラスな筆致も効果的で、真相の衝撃が大きくなっている。

 

 百年前にこぶとり爺さんの事件のあった村で、爺さんの子孫が殺された。容疑者の頰にはふたつのこぶがあり、片方には証拠の傷があったが、そのこぶは鬼に付けられてしまったものだという。読者の予想を超える真相が待ち受ける「こぶとり奇譚」。

 

 舟大工が殺され、琵琶法師の芳一に疑いがかかる。陰陽師の桃花が驚愕の殺人トリックを見破る「陰陽師、耳なし芳一に出会う。」。

 

 F・R・ストックトンのリドル・ストーリー(結末を読者に委ねる小説)「女か虎か」と「舌切り雀」を組み合わせた傑作「女か、雀か、虎か」。

 

 山小屋に住み、変わった椅子に座っている太郎という男は、話を聞いただけで隠された真相を見抜いてしまうという。殿様が村娘のなえから太郎の推理を聞く「三年安楽椅子太郎」。そして、なえが金太郎城で起きた殺人事件に巻き込まれ、太郎が驚きの真相を知る「金太郎城殺人事件」。

 

 トリック満載で、尻尾まであんこの詰まった鯛焼きのような連作短篇集だ。読者としては、これで終わりなどといわず、第2期、第3期と、できる限り続けて欲しいところだ。このシリーズで本格ミステリになっていない昔ばなしは、まだたくさんあるのだから。