これはもしかしたら、ものすごく崇高な戦いの記録なんじゃないだろうか。

 ──って、いや、ちょっと待って。野グソだの自慰だのエロ動画だのティクビだのセックスしたいだのって言葉がほぼすべてのページにわたって畳み掛けるようにばんばん出てくるこの物語が崇高? 崇高って何だっけ?

 と思わず自分でツッコミたくなるが、それでも崇高だと思ってしまったのだから仕方がない。

 主人公は勅使河原一子。三十六歳、処女。豚の背脂と東方神起が大好きで、体重七十八キロ、顔は元ジャイアンツ上原とナンチャンのハイブリッド。夢も希望もなく死んだように生きてきたが、いや、このままじゃダメだ! と三十六歳の誕生日に一念発起。今年こそ人生を変えるのだ、何がなんでも処女を捨ててやるのだ!

 というわけで本書は一子の日記を軸に、彼女の悪戦苦闘の一年間が綴られることになる。

 とにかく文章がポップでちょっとした言葉のセンスが楽しく、ケラケラと笑いながら読み進む。だが実を言うと最初は一子にはあまりいい印象は持てなかったのだ。だってかなり下品だし、変わりたいって言いながらまったく自分を律せてないんだもの。痩せたいのに背脂食べるって何? 自分を客観視することができず、行動しようとすれば明後日の方向で空回りする様子など、とてもイタい。ところがふと気づくと、いつのまにか一子にがっつり感情移入していて驚いた。だからダメなんだよ、ではなく、よし行け! と拳を握りしめ、前のめりになっていた。

 この読者の気持ちの変化こそが、この物語のキモだ。一子という主人公はとてつもなく異端のように思えるが、実は普通の女子がそれぞれに抱く悩みやコンプレックスの集合体なのである。自分とは絶対に違うタイプだと思いながらも、ふっと自分がよぎる。そんなバカな、と思いながらもいつしか応援してしまう。一子自身もさまざまな出会いや経験を経て変化するのだが(だが肝心なところは変化しないのだが)、最も変化するのは読者の方なのだ。

 自分を変えるなんて、そんなに簡単じゃない。あきらめたりやさぐれたり愚痴ったりしながら、でも明日こそは、来年こそはと思い直し、懲りないパワーで突き進む。周囲に笑われようが引かれようが突き進む。うん、これが崇高でなくて何だろう。「変わりたい」と思っているすべての女子よ、一子に(ほどほどに)続け!