連続テレビ小説『虎に翼』をはじめ、現在放送中の『もうパパ!』など数々の話題作を手がける脚本家・小説家の吉田恵里香。そんな彼女の“原点”ともいえる歴史エンターテインメント小説『僕とあいつの関ヶ原』『俺とおまえの夏の陣』がついに文庫化されました。今につながる物語づくりの原点は、どこにあるのか。

 作品を書いた当時を振り返りながら、エンターテインメントへのこだわりと、現在まで変わらない創作の核について聞きました。

 

 

僕とあいつの関ケ原
俺とおまえの夏の陣

 

 

■エンタメの筋肉は、ここで鍛えられた

 

──「夏の陣」や「関ヶ原」という歴史上の合戦そのものよりも、なぜ武将たちの「バディ」を描こうと思ったのでしょうか。

 

吉田恵里香(以下=吉田):「バディものの時代劇で、関ヶ原と夏の陣をやりませんか」と単行本を刊行した出版社さんからお声がけいただいて、当時はまだ20代前半だったので、「なぜ私なんだろう?」とびっくりしたのを覚えています。アニメ『TIGER & BUNNY』のコミカライズやノベライズを担当していたので、その実績を見て声をかけてくださったみたいです。

 

 正直、歴史の知識が全くなかったので猛勉強からのスタートでした。文献を読み進めるうちに、一般的にエンタメ作品で描かれる人物像とは違う一面が見えてきたんです。たとえば小早川秀秋の19年の生涯を追うとすごく不運だけど実は頑張っている時期がある。伊達政宗も天下を諦めた後は、自分の領地を豊かにしようと民に目を向けている。「自分が知らない面白い歴史がこんなにあるんだ」と発見しながら書いていきました。

 

──20代前半で挑んだ本作ですが、何が吉田さんを突き動かしていたのでしょうか。今読むと、「若い頃だからこそ書けた」と感じる部分はありますか。

 

吉田:当時は20代前半で知識もなかったので、言われるがまま「はい、やります!」と飛び込みました。関ヶ原は合戦という明確なクライマックスがあるので書きやすいのですが、調べてみると夏の陣での伊達政宗って実はそこまで派手に活躍していないんですよね(笑)。「どうしよう」と思い直して、政宗が天下取りからシフトし、少ない領地を豊かなものにしようと奮闘したプロセスの面白さに焦点を当てました。

 

 この時期は他のノベライズ仕事や漫画連載も重なっていて、とにかく怒涛の日々でした。当時の自分に声をかけるなら、「頑張っていたら、数字や目に見える結果だけじゃなくて、誰かが必ず見ていてくれて意外なところで繋がっていくから、そのまま頑張れ!」と言ってあげたいです。振り返ると、そのハードな時期を駆け抜けたことで自分の中に「鍛錬された感覚」が強く残っています。作品を産み出す体当たりの熱量は、若い頃ならではのものだったなと思います。

 

──重厚なエピソードとテンポのいい会話劇を、どのように両立させているのでしょうか。セリフ作りへのこだわりや、当時と現在で変わった点についても教えてください。

 

吉田:リズム感や読み心地は、最終的には感覚で判断している部分が大きいです。ただ、冒頭など状況説明が必要なシーンでは「五・七・五・七・七」のような和歌の心地よいリズムを意識することもあります。

 

 小説では、セリフを文章として読んだときのテンポを重視しています。映像(脚本)の場合は役者さんの表情や美術、音楽があるからこそ哲学的なセリフでも浮かない世界観を作れる。その違いがありますね。

 

 今振り返ると、当時は自分が若かったからこそ書けたセリフがたくさんあります。武将たちが自分のプライドや意地を貫いて散っていく姿や、純度の高い忠誠心、自己犠牲といったものを恐れずに描けたのはあの時代だからこそです。キャリアを重ねて立場が変わり、若い世代を見守る側になった今では、「年下の人が犠牲になること」を美化して描くことには躊躇してしまいますね。今オファーをもらったら、合戦そのものではなく合戦が終わった後の時代をメインに描くかもしれません。

 

──「自分の人生は自分で選ぶ」という『虎に翼』にもつながるテーマは、この頃からあったのでしょうか。

 

吉田:この10年間を振り返ってみると、私はずっと形や味を変えながら「自分の人生の選択肢は自分で決めるものだ。それができないのは、あなたではなく社会や周りの環境がおかしいのだ」ということを書き続けているんだなと気づきました。

 

 現代は「選択肢が増えた」と言われますが、実際は一部の人しか使えない課金システムのようなところがある。選択できない環境にいる人に対して「自己責任だ」と突き放す残酷さがあります。

 

 時代モノには、そうした生死や格差という過酷な構造が最初から時代背景として備わっています。だからこそ、人間ドラマをより純粋に浮き彫りにしやすいという面白さがある。現代ドラマでも時代劇でも、選べない構造のおかしさや自分の意志を貫く尊さを突きつけていきたいという根底の怒りやテーマは変わっていません。

 

──この2作を書いた経験は、現在の吉田さんの物語を面白くする力にどうつながっていますか。

 

吉田:一言で言うと「エンタメの筋肉」ですね。作品をどう盛り上げるか、観客や読者がどこまでなら展開を待てて、どこから退屈してしまうのかという「エンターテインメントの見せ方」の感覚は、間違いなくこの時期に叩き込まれました。

 

 小説と脚本の出力を切り替えながら、限られた尺やページの中で登場人物の魅力を最大化するトレーニングになったと感じています。

 

──今改めて本作を手にとる読者へメッセージをお願いします。  

 

吉田: この作品から溢れ出る、若さや熱量を楽しんでいただけたら嬉しいです。「こういう価値観や葛藤を経て、今の作品に繋がっているんだな」という私の原点を感じてもらえると、また違った面白さを発見していただけるのではないかと思います!