10月14日、藤まるさんの最新作『余命13分の厄病神』が発売されました。

 本作は、2017年に刊行され、累計36万部超の大ヒットとなった『時給三〇〇円の死神』の姉妹作です。『時給三〇〇円の死神』は刊行から9年が経った今も多くの方に読まれ続け、現在は西畑大吾さん、福本莉子さん主演で実写映画も公開されています。

 そんな作品の姉妹作として生まれた『余命13分の厄病神』。いったい、どんな物語なのか、担当編集がご紹介します。

 

 

大切な人の死に目に、もう一度だけ会いに行けるとしたら──

 

 主人公は、20歳のフリーター・柚木恭介。恭介には、ずっと後悔していることがありました。それは、難病で亡くなった少女・美鈴との約束を守れなかったこと。幼い頃から孤独だった彼にとって、いつも明るく笑う彼女は特別な存在でした。二人は「最期の時間を一緒に過ごす」と約束を交わしますが、その約束は果たされないまま、美鈴は亡くなってしまいます。

 

 そんな恭介の前に現れたのが、「厄病神の砂時計」でした。その砂時計を使えば、大切な人が生きていた過去へ戻ることができる。ただし、過去を変えることはできません。さらに、どれだけ砂時計に時間が残っていても、会いに行った相手が亡くなる「13分前」になると、強制的に現代へ戻されてしまいます。

 

 大切な人の死に目に会いに行くことはできる。

 でも、その最期を見届けることはできない。

 

 恭介は砂時計を使い、美鈴が亡くなった日へ向かいます。今度こそ約束を果たせる。そう思っていた恭介に、美鈴は涙を流しながら、思いもよらない言葉を口にします。

 

「お願い。―――を殺して」

 

 恭介が聞き取れなかった「―――」に入るのは、いったい誰なのか。そして、いつも明るく笑っていた美鈴は、なぜ最期にそんな願いを残したのか。その真意を追いかけるうちに、恭介は自分の知らなかった美鈴の過去と、彼女が最期まで胸に秘めていた想いに触れていくことになります。

 

 この本の企画を考えるうえで、立ち返ったのが『時給三〇〇円の死神』でした。同作が発売された2017年、私はまだ学生でした。小説を読み、コミカライズも楽しんでいた一読者です。それから編集者になり、改めて読み返したとき、「なぜこの物語は、刊行から年月が経っても多くの読者に支持されているのだろう」と考えました。

 

『時給三〇〇円の死神』では、主人公・佐倉真司が“死神のアルバイト”を始め、死者に与えられた「ロスタイム」に寄り添っていきます。もう一度会いたかった人。伝えられなかった言葉。取り戻すことのできない時間。死んだ人を生き返らせることも、起きてしまった過去を変えることもできません。それでも、誰かの想いを知ることで救われることがある。そして死者たちに寄り添っていた主人公自身も、彼らとの出会いを通して、自分の人生と向き合うようになります。

 悲しい物語なのに、読み終えたあとに残るのは、それだけではない。悲しみの向こうに、どこか温かな余韻が残る。そこにある「救い」こそが、『時給三〇〇円の死神』が長く愛されている理由のひとつなのではないか。そう考え、藤まるさんに新作をお願いしたことから、この企画は始まりました。

 

 企画を進め始めた頃、『時給三〇〇円の死神』が実写映画化されることを知りました。それならば、新作も『時給三〇〇円の死神』とつながりを持つ作品にできないだろうか。藤まるさんと相談し、同じ世界観を持つ「姉妹作」として制作することになりました。そうして新たな物語の構想を練る中、届いたプロットに書かれていたのが、「厄病神」という言葉でした。

 

「死神」の次は、「厄病神」。これは面白い! 本来なら、災いをもたらすはずの「厄病神」が、人の後悔に寄り添う。恭介は美鈴に会うために砂時計を使い、その後、「厄病神」として、さまざまな人の「もう一度会いたい」という願いに立ち会っていきます。

 

『時給三〇〇円の死神』で描かれた「ロスタイム」と、『余命13分の厄病神』で描かれる「過去」。二つの作品に共通しているのは、どちらも「過去を都合よく変える物語」ではないということです。大切な人との別れも、してしまった後悔も、なかったことにはできない。けれど、知らなかった誰かの想いを知ることで、その後の自分は変わるかもしれない。『時給三〇〇円の死神』にあった「救い」は、『余命13分の厄病神』にも受け継がれています。

 

 そして、今作で私がもうひとつ惹かれたのが、美鈴と並ぶヒロイン・影山凛です。明るく無邪気な美鈴とは対照的に、凛は寡黙で、なかなか本心を見せません。けれど、恭介と一緒にさまざまな人の過去を見届けるうちに、少しずつ心を開き、自分の気持ちを口にするようになっていきます。

 

 藤まるさんはやはり、女の子をとても魅力的に描かれる作家だな、と改めて感じました。美鈴の明るさは、物語の最後まで恭介を照らし続ける。そして凛もまた、読み進めるほどに愛おしくなっていく。そんな凛自身にも、ずっと向き合うことのできなかった過去があります。詳しくは書けませんが、終盤、凛がその過去と向き合う場面と、最後に待っている「再会」のシーンを読んだとき、私は泣いてしまいました。編集者になって、原稿を読んで涙を流したのは初めてでした。

 

 現在公開中の映画『時給三〇〇円の死神』を観て、藤まるさんの描く物語をもっと読みたいと思った方。原作を読み、佐倉たちの物語に涙した方。そして、大切な人との別れや後悔を描きながらも、最後には少し前を向けるような物語が好きな方。そんな方に、ぜひ読んでいただきたい一冊です。もちろん、『時給三〇〇円の死神』は未読という方も、本作から独立した新しい物語として存分に楽しんでいただけます。

 

 大切な人の死に目に、もう一度だけ会いに行けるとしたら──

 あなたなら、誰に会いに行きますか?

 

 ぜひ最後まで、恭介、美鈴、そして凛の物語を見届けていただけたら嬉しいです。