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 月曜日、仕事を終えて午後七時過ぎに帰宅すると、母は鯛のアラで出汁を取った茶碗蒸しとメバルの煮つけを用意してくれていた。前日は、鯛の塩焼きと昆布締めだった。三日続けての贅沢な魚料理に、親子三人で舌鼓を打った。

 夕食と入浴を終えると、就寝までの間、三階にある自室で動画を見ながらゆっくり過ごすことにした。一時間ほど経ったところで、小腹が空いてきた。夕食が魚中心のあっさりメニューだったせいだろう。部屋から出て、二階のダイニングにお菓子を取りに行った。

 二階の照明は、夜間モードになっていた。父と母も三階の寝室に引き上げたようだ。

 お菓子の保管スペースになっている食器棚の戸棚を開けて、舜は首を傾げた。先週、舜が買ってきたスナック菓子が、見当たらなかったのだ。健康への意識が高い母は、スナック菓子を口にしない。父がビールを飲むときに、つまみにしたのだろう。食べるのはいいが、顔を合わせたときに一言言ってほしかった。

 しかたないので、母が購入したと思しき小袋入りのミックスナッツを持って部屋に戻り、動画の続きを見ながら食べた。

 翌朝、父にスナック菓子のことを聞こうと思ったが、父は寝坊を決め込んでいた。火曜は、週に一度の定休日なのだ。

 朝食を食べながら、「あれ?」と思った。母がいつも「カルシウム補給」と称して朝食に出すシラス干しが見当たらなかったのだ。そのときは買い忘れたのかなと思っていた。

 何が起きているのか理解したのは、その日の夜だった。

 残業があったので八時過ぎに帰宅し、母が作っておいてくれた夕食を一人で食べた。主菜はきくらげ、玉子と豚肉の炒め物である。舜はこの料理に、ベトナムの辛い調味料をちょっとつけて食べるのが好きだ。冷蔵庫に取りに行ったら、いつのも場所にその調味料が見当たらなかった。

 残念に思いながらテーブルに戻って食事を始めたところで、母がキッチンに入ってきた。風呂上がりの母は、冷蔵庫から水のペットボトルを取り出して、コップに注ぐと、美味しそうに飲んだ。

「お母さん、ベトナムの辛い調味料、切れてたよ。俺、あれ好きなんだ。また買っておいて」

 母は振り向くと、硬い表情で言った。

「ウチでは、エビとカニは禁止です」

「ええっ?」

「生だけじゃなく、調味料なんかも禁止。原料を確認して、エビやカニのエキスが使われているものは全部捨てた」

 唖然とした。そして気づいた。

「ええっと、もしかして、俺が買っておいたスナック菓子も?」

「エビ煎餅なんて論外でしょ。シラス干しや海苔もエビの赤ちゃんが混入してるかもしれないからアウト」

 一方的にダメ出しをされ、つい大きな声が出た。

「そこまですることないだろ」

「コップが満杯になったら、大変だから少しでも減らさないと。外食も気をつけてよ。調味料はチェックしようがないけど、たとえば、中華丼はエビだけ残すとか」

「お母さん、それ、過剰反応だから」

 言い争っていると、パジャマに着替えた父が部屋に入ってきた。

「二人ともどうしたんだ」

 エビカニ問題をこれ以上引きずりたくなかった。舜は、努めて明るい声を出した。

「お母さんのいつもの心配性。釣りのとき、手が腫れたのは餌のエビのせいだから、エビもカニも禁止だって言うんだ。大げさだよね」

 母が険しい表情で首を横に振る。

「甲殻類アレルギーって恐ろしいんだから」

「そうだろうけど、俺は違う。これまで散々食べてきたけど、なんともない」

 そう言うと、舜は父を見た。

「エビカニ禁止令なんか出されたら、お父さんも好物のエビマヨやカニカマ入りのポテサラを作ってもらえなくなるよ」

 冗談めかして言うと、父は複雑な表情を浮かべた。冷蔵庫からビールを取り出し、母と舜のどちらにともなく言う。

「食べて蕁麻疹が出たりしたら、食べるのをやめればいいんじゃないか?」

「俺もそう思う。何かあったら、病院に行くよ」

 母が顔を歪めた。今にも泣き出しそうだ。

「二人とも、どうしてわかってくれないの?」

 完全にスイッチが入ってしまったようだ。舜は、視線を伏せた。

 舜の正面の席に着き、ビールを飲み始めた父が、何かを思い出したように言った。

「医者に話を聞いてみるというのはどうだろう」

 母が大きくうなずく。

「それはいい考えね。アレルギーの検査もしてもらえるんじゃないかしら」

「いや、そうじゃなくて」

 父が何か言いかけたが、母は構わず続けた。

「舜ちゃん、そうして。検査で何もなかったら、堂々と食べられるじゃない」

 こんなことで医者に行くなんて、はっきり言って面倒くさい。必要があるとも思えなかった。だいたい、医者は嫌いなのだ。待たされるし、上から目線の人も多い。スタッフも偉そうだったり、無愛想だったりする。新型コロナウイルスに感染して発熱外来に行ったときには、危険人物のように扱われて不快だった。感染防止のためとはいえ、あれはない。

 でも、家でエビやカニを食べられないのは困るし、無関係な父が巻き込まれるのもかわいそうだ。母にくどくど言われ続けるのも困る。

「分かった。じゃあ、土曜日に皮膚科に行ってみる」

 母は、「ありがとう」と言って、微笑んだ。

 

 

 土曜日は、墨田区にある広岡精工の工場見学に朝から出かけた。休日出勤は億劫だが、今日に限って言えば、クーラーボックスとキャリーカートを借りっぱなしにもできないので、好都合だった。

 舜の会社が広岡精工から受注したのは、生産管理用の情報システムの開発である。開発開始に先立って工場見学は必須だが、広岡精工側の担当者の都合がつかず、「土曜日ならば」という話になったのだ。舜は営業担当だが、システム開発が終了するまで調整業務は続く。

 東武伊勢崎線の駅で同僚二人と落ち合い、徒歩で広岡精工に向かった。クーラーとカート、そして母が用意してくれた菓子折りは、事情を話して先方の担当者を通じて秘書室に預けた。

 工場見学は、その後のミーティングも含めて昼前に終了した。ミーティングルームでノートPCを片づけていると、スマホを見ていた先方の担当者が言った。

「田守さん、この後、お時間ありますか? 広岡からメッセージが入っていました。お目にかかりたいそうです」

「あっ、はい。もちろんです」

 舜も広岡に会いたかった。できれば釣りの指南を受けたい。

 同僚二人には、先に帰ってもらい、社長室に行った。ドアをノックをすると、作業着姿の広岡がドアを開けてくれた。

「やあ、田守さん。先日はお疲れさま。クーラーとカート、確かに受け取ったよ。まあ、座って」

 言われるまま、応接セットのソファに腰をかけた。

「鯛の天ぷらが絶品で、母も喜んでいました。それと、お薦めいたただいた吟醸純米、刺身と絶妙に合いました。僕も父もつい飲みすぎてしまって」

 広岡が身を乗り出した。

「日本酒が好きなら、次はカワハギを釣りに行こう。薄造りにした刺身に、肝を溶いた醤油をつけて食べるんだけど、辛口の純米酒にめちゃくちゃ合うんだ。フグより、よほど美味いよ」

 そう言われても、フグを食べたことがないので分からない。でも、広岡のお薦めなら絶対に美味しいはずだ。是非行きたいが、一つ問題があった。手が腫れたら、母がまた余計な心配をする。

「ちなみに、餌は何ですか?」

「アサリのむき身だね」

「エビじゃなくて、よかったです。この前、僕、海水で手がかぶれたじゃないですか。心配性の母に甲殻類アレルギーだと決めつけられて大変だったんです。今日も、アレルギー検査を受けに皮膚科に行かなきゃならなくて……。エビを使う釣りで手がまた腫れたら、母がその話を蒸し返しそうで憂鬱です」

「それはそれは。でも、次も手が腫れたら、アサリアレルギーって言われない?」

「あー、それはあるかもしれません。まあでも、二枚貝はもともと苦手なので」

「ハハ、そうなんだ。それにしても田守さんのお宅は、親子仲がいいね。ウチの子は二人とも就職と同時に家を出たんだ。通勤に支障がなければ、実家のほうが楽だし貯金もできると思うんだけどねえ。家内は寂しがってるし、美味い魚を持って帰っても家内と二人では大半が冷凍庫行きだから、僕も残念だ。二人とも元気にやってるから、文句を言う気はないけど」

「そうなんですね」と言いながら、舜は曖昧に微笑んだ。

 舜は実家に月三万を生活費として入れ、自室の掃除以外の家事を母にやってもらっている。確かに楽だし、実家暮らしが悪いとも思っていない。前に読んだネットの記事には、都内に住む二十代の四割弱が実家に住んでいると書いてあった。都内は家賃がとにかく高いのだ。一日一万円超の遊漁船の料金だって、一人暮らしだったら、気軽には出せなかっただろう。

 両親も舜の同居を歓迎している。ただ、いつまでもこのままではいけないのではないか……。

 舜が黙り込んだせいか、広岡が慌てた様子で言った。

「立ち入った話をして申し訳ない」

「いえ、全然大丈夫です。それより、カワハギ釣り、是非連れて行ってください。今度は自前のクーラーを用意しようと思うんですが、どのぐらいのサイズが使いやすいですか?」

 舜が言うと、広岡は嬉しそうに身を乗り出した。

「その前に、釣行の予定を決めちゃおう。二週間後でどう?」

 もちろんオーケーだ。

 

 帰り道、新宿のラーメン店で昼食をとると、大手釣具店に行った。店のスタッフと相談しながら、容量三五リットルのクーラーとライフジャケット、カワハギ用の重りなどを購入した。思い切ってロッドとリールも買おうと思ったが、カワハギ用は汎用性が低いそうなので、とりあえず広岡に借りることにした。

 店のスタッフにあれこれ教えてもらっていたら、すっかり時間を食ってしまった。東中野駅に着いたのは、午後四時少し前だった。自宅に戻る時間が惜しいので、目星をつけておいた皮膚科クリニックに直接向かう。

 そのクリニックは、山手通り沿いのビルの一階にあった。中に入るなり、舜はげんなりとした。待合室に人が溢れていたのだ。ソファに座り切れず、立っている人もいる。

 受け付けの中年女性に、初診であることを告げ、待ち時間を尋ねた。女性は、舜の後ろに並んでいる人を気にしてか、苛立った口調で言った。

「一時間半ぐらいですかね。呼び出し用のポケベルをお渡しするので、外で待ってもらっても構いません」

 土曜日だからファミレスやファストフード店はどこも混んでいるだろう。しかも、この大荷物である。

「すみません、別の日に出直します」

 それがいいですね、とでも言いたそうな顔で、女性はうなずいた。

 まいったなと思いながら、舜は外に出た。通行の邪魔にならない場所へ移動し、スマホで近隣にある皮膚科を検索する。何軒かみつかったが、どこも診察時間が終わっていたり、終了間近だったりである。遠くまで行く元気もないので、自宅に向かって歩き出す。

 母は、この一週間、食卓にエビとカニを一切出さなかったが、それ以外は、落ち着いていた。舜が、今日皮膚科に行くと約束したからだろう。でも、このまま帰ったら、スイッチが入ってしまいそうだ。

 歩いているうちに、カミナーレの前を通りがかった。今日もあの立て看板が出ている。

 ふと思った。この店に入れば、医者に甲殻類アレルギーについて、詳しい話を聞けるかもしれない。

 ガラス戸から中をのぞいてみると、先客は奥のほうのカウンター席にいる大柄な女性一人のようだった。舜と同年輩に見えるその女性は、このカフェの常連のようで、カウンターの中にいるシュッとしたイケメンスタッフと楽しそうに話している。

 カウンターの中には、この前立て看板をしまおうとしていた丸っこい男性もいた。コーヒーのドリップをしているようだ。

 せっかくだから寄ってみようか。千五百円で医者にアドバイスをもらえるなら、安いものだ。それに、この店のコーヒーはとても美味しかった記憶がある。

 店内に入ると、「いらっしゃいませ」という声がカウンターの中の二人から同時にかかった。

「立て看板を見て寄ってみたんですが、アレルギーについて教えてもらっていいですか?」

 舜が言うと、丸っこい男性が、笑顔でうなずいた。

「もちろんです。僕は医師で丸山賢太といいます。カウンター席へどうぞ。荷物は、テーブル席に置いちゃってください」

 荷物をテーブルに置かせてもらい、入り口に近いカウンター席に腰を落ち着ける。メニューを見て、ホットコーヒーを頼んだ。

 丸山は、なぜか唾を飲み込むようにしてから、「かしこまりました」と言った。緊張した面持ちでドリップの準備を始める。イケメンは女性客に「また後で」と声をかけると、カウンターの奥にある厨房に消えた。料理人なのかもしれない。この店は、ランチ時やバータイムにはフードも出すのだ。

 丸山が淹れてくれたコーヒーは、残念ながら今一つだった。味も香りもスカスカしている。前に女性バリスタが淹れてくれた香り高いコーヒーとは、全く別ものだ。失望が顔に出てしまったのだろうか。丸山が申し訳なさそうに頭を下げる。

「すみません、お口に合いませんでしたか」

「そんなことないですよ。前に飲んだのとはちょっと違うなと思っただけで」

「やっぱり違いますか。前に飲まれたのは、この店のオーナーでバリスタのめぐみさんが淹れたものだと思うんです」

「女性の方ですよね?」

「はい。水島めぐみさんといいます。このお医者くんカフェは二人で始めました。ようやくめぐみさんの許可が出たので、初めて僕が淹れたものをお客さんにお出ししたんですが、まだ早かったのかなあ」

 弓形の太い眉を寄せ、首を振っているのを見て、なんだか不安になってきた。医師免許を持っているといっても、実力はピンキリだろうし、中には変人もいるだろう。でも、話を聞くだけなら、たとえ変人でも実害はなさそうだ。

「ええっと、お名前をうかがっていいですか? ニックネームでも構いません」

 田守と名乗ったら、バーバータモリの息子だと知れてしまいそうだ。お互いの店は、百メートルも離れていないのだ。

「シュンと言います。ところで、丸山先生に質問なんですが……」

「ここでは丸くんと呼んでください」

 ますます不安になったが、丸山はにこやかに続けた。

「話をうかがう前に、お医者くん、つまり僕のカフェのルールを説明させてもらいますね」

「あ、はい」

「ここはカフェなので、診察や診断はしません。質問や相談を受けます。僕もスタッフも守秘義務は守りますし、お客さんもこの店で聞いた話は口外禁止です。ただ、話が周りに聞こえてしまうのは、しようがないし、お客さんの中には口が軽い人もいるかもしれません。プライバシーや個人情報が気になるようであれば、個別相談でお受けします。料金は、一時間一万円と少々お高いんですが……」

 舜はうなずいた。自分の場合、個別相談の必要はまったくない。コーヒーをもう一口飲むと、話を始めた。

「ちょうど一週間前、釣りに行ったら手が腫れたんです。もう直ったし、海水でかぶれただけだと思うんです。ただ、餌がエビだったもので、母が甲殻類アレルギーだと言うんです。どんなもんですかね」

「息が苦しくなったり、全身に蕁麻疹が出たりはしませんでしたか?」

「まったくなかったです。これまでエビやカニを食べて体調を崩したこともありません」

「だとすると、甲殻類アレルギーと断定はできないですね。シュンさんがおっしゃるように、海水でかぶれただけかもしれません」

「やっぱりそうですよね。なのに、母はコップの水が溢れる要領でそのうち発症するから、甲殻類は極力食べるなと言うんです。家にあるお菓子や調味料を調べ上げて、エビが入っているものは全部捨てられました」

 丸山は大きな目を見張った。

「なんと! 徹底していますねえ」

 舜は、思わずカウンターに身を乗り出した。

「大げさすぎませんか?」

 そこまでする必要はない、と丸山に言ってほしかった。あるいは、多少食べたって問題ないと。しかし、丸山の意見は違った。

「さっきの話を聞く限り、アレルギーではないと断定もできません。皮膚科かアレルギー科がある医療機関を受診して、必要に応じて検査を受けたらいいと思いますよ」

 母とほぼ同じ意見のようで、がっかりだ。

「実はさっき山手通り沿いの皮膚科に行ってきました。土曜だからかめちゃくちゃ混んでて、受診を諦めたんです。はっきり言って、僕は困っているわけではないんです。新しい仕事が始まったばかりだし、平日に有休を取って受診するわけにはいかなくて……」

「うーん、でも、僕だったら専門医と相談してから、食べるかどうかを決めますね。心配しながら食べても美味しくないですから」

 別に心配はしていないのだが……。実際、今週も母には黙ってランチに五目焼きそばを食べた。エビももちろん美味しくいただいたし、体調にまったく問題はない。

「医療機関を受診するまでの間だけなら、エビやカニを我慢するのも、そこまで大変ではないですよね。ただ、甲殻類アレルギーの人は、エビやカニ以外にも、避けたほうがいい食材があったような……。僕は専門が呼吸器内科で、細かいことは調べないと分からないんですが」

 スマホをいじっていた女性客が顔を上げた。地味な顔立ちだが、仕事ができそうな雰囲気だ。

「私、いくつか分かるかもしれません」

 彼女も医療関係者なのかと思ったら、そうではなかった。ショウコと名乗ったその女性は、水産加工会社で商品企画の仕事をしているそうだ。

「シラス干しやちりめんジャコには、エビの幼生が混ざっている場合があります。かまぼこ、調味料、お菓子なんかにも粉末やエキスが使われていることがあるから要注意ですね。あと、イカやタコ、貝類なんかも、甲殻類と同じアレルギー原因物質を持っていて、症状が出る人がいるみたいですよ」

「食べられないものがめちゃくちゃ多いじゃないですか」

 丸山がうなずく。

「いちいち心配するのも嫌でしょう。手が腫れたという事実もあるわけで、専門医と相談するのが早いですよ。シュンさんの場合、症状が出ているので、検査に保険が適用される可能性も高そうですし」

 そう言われても、納得できなかった。そこまで警戒する必要があるのかどうか。食べて症状が出たら、受診する、で十分だと思うのだ。

 ショウコが言った。

「シュンさんの事情も分かります。勤めていると、ちょっとした不調で有休を取るのは難しいですよね」

 丸山が首を横に振る。

「有休は働く人間の権利です」

「そうですね。お互い様だと思うんですが、性格的になかなか言い出せなくて……。でも、最近は郵送で検査を受けられるんじゃなかったかな」

 舜にとって、興味深い話だった。

「郵送で検査ができるんですか?」

「丸くん、知りませんか?」

「そういう検査サービスを提供している会社はあるようですね。検査キットを郵送してもらって、血をちょっと採取して送り返すんです。健康保険は使えないから、安くはないですが」

 それだ、と思った。医者に行かなくていいなら、多少お金がかかっても構わない。

「ありがとうございます。いい話を聞きました。早速調べてみます」

 お礼を言って、丸山に会計を頼んだ。丸山は、眉を上げると、慌てたように言った。

「いや、ちょっと待ってください。話の続きがあるんです。郵送検査は、僕はお勧めできません。医療機関を受診したほうがいいですよ」

 それは一つの意見だ。でも、検査なんか、誰がやっても同じだろう。

 まだ何か話したそうな丸山に、「ご馳走さまでした」と言うと、代金を支払って店を出た。

 検査を受けると言えば、母も納得してくれるだろう。

 

(第3回につづく)