2025年に第13回静岡書店大賞で賞創設以来初のW受賞を達成し、2026年には『マッドのイカれた青春』で第2回未来屋アオハル文学賞を受賞するなど、いま最も注目を浴びる若手作家のひとりである実石沙枝子。様々なジャンルを描いてきた彼女が新たに挑戦したのは、言論統制で「言葉を紡ぐ自由」が奪われた近未来を舞台に、違法郵便を運ぶ少女の成長を描いたジュブナイルSF。
「WEB小説推理」2026年9月号に掲載された書評家・大森望さんのレビューで『燃える夜空に星ちりばめて』の読みどころをご紹介します。

■『燃える夜空に星ちりばめて』実石沙枝子 /大森望 [評]
空飛ぶ郵便配達員が世界を変える──シンプルで力強い、胸を打つ革命の物語
ここ数年、SFの世界では、冷笑主義に抗って前向きな希望を語る“ホープパンク”が注目されている。若手の実力派・実石沙枝子の新作『燃える夜空に星ちりばめて』もそのひとつ。言語の統制と検閲による支配は『一九八四年』風だが、本書の場合、オーウェル的なディストピアの閉塞感や軍事独裁の恐怖より、それに抵抗して立ち上がる人々のシスターフッド的な連帯と未来への希望に力点がある。シンプルで力強く、まっすぐでみずみずしい、青春と革命の物語だ。
今から200年以上未来、2度の世界大戦を生き延びた少数の人類は、〈ユニオン〉と呼ばれる7つの復興優先地域で細々と暮らしている。舞台となる六番ユニオンは、日本海あたりに浮かぶ人工島。複雑な概念を排し、わかりやすく簡略化した文章を強制する「書記法」と自動検閲システムにより、住民は自由な言論を奪われ、軍事政権の支配に唯々諾々と従っている。
主人公のスピカは、荒野に生まれ、家族を失い、三番ユニオンのゲリラに身体改造された元少女兵士。義翼と電子義眼と強化筋肉を持ち、単身、空から敵基地に侵入して敵兵を殺戮、〈死の天使〉と恐れられた。
2年前、六番ユニオンに流れついたスピカは、民間軍事会社の豪放磊落な頭領マダム・ペッパーに拾われて合法的な身分を取得。その際の借金を返すため、空飛ぶ郵便配達員として働いている。親友でもある凄腕の闇医者兼エンジニアのイルがスピカのサポート役だ。
抜群の戦闘能力を誇るスピカだが、読み書きができず、政治や社会に無関心で、涙腺を除去されているため涙を流すこともできない。そんな彼女が、仕事を通じて反体制組織に関わったことから、六番ユニオンの土台を揺るがす歴史のうねりに吞み込まれてゆく。
単純化されてはいるものの、設定はよく練られていて、SFとしても上々。抵抗運動の高まりとともにスピカは人間的に成長を遂げ、胸を打つ結末にたどりつく。今みたいに息苦しい時代だからこそ読みたい、希望と爽快感に満ちた長編だ。