「読んだらお鮨が食べたくなる小説」として人気の原宏一さん「間借り鮨まさよ」シリーズ。自分の店は持たず、間借り営業で全国を転々としながら、悩める若者たちにさりげなく救いの手を差しのべ、絶品のお鮨を食べさせる──。思わずホッコリしてしまう人情鮨小説の最新刊が発売されました。

 

「小説推理」2026年4月号に掲載された書評家・大矢博子さんのレビューで『のほほん人生 間借り鮨まさよ3』の読みどころをご紹介します。

 

 

のほほん人生 間借り鮨まさよIII

 

■『のほほん人生 間借り鮨まさよ3』原宏一  /大矢博子 [評]

 

雅代の間借り鮨、今回は悩める若者たちの前に登場。雅代が彼らに伝えたい思いとは……

 

 見た目はぽっちゃり丸顔のほほんおばちゃん、その正体は凄腕の鮨職人。全国各地の飲食店に間借りして鮨屋「鮨まさよ」を開き、そこで出会った悩める人々の胃袋と心を満たしていくシリーズの第3弾だ。

 

 今回は3篇が収録されている。料理学校でフレンチを学んでいるがそのフレンチが肌に合わず、雅代に弟子入りしたいと考える女子学生・玲菜。山形県酒田市で実家が営むラーメン屋が、あるきっかけで暴走していることを知って悩む大学4年生の息子・謙吾。父が急死し、祖父の代からの鮨屋をどうするか岐路に立たされるアパレル勤務の娘・野乃花。

 

 これまで第1巻では経営者や経営者候補の物語、第2巻では客の物語が中心に展開されてきた。そして今回は後継者のターンだ。それも、最初から後継者の話というわけではなく、主人公はどれも別の進路に向かっていた若者たちだ。彼女たちが何に出会い、何を感じ、何を考え、何を決意するのか。その過程に本書の読みどころがある。

 

 そんななか登場するのが雅代だ。フレンチよりも鮨、雅代さんみたいなカッコイイ職人になる、と張り切る玲菜に雅代が課した条件。父の弟子が独立して開いたラーメン屋が好評で、その代わりのように父の店が凋落していく様子を目の当たりにした謙吾に、雅代がかけた言葉。そして他人に任せた店が父の頃の店とはまったく違うものに変化したことに憤る野乃花に、雅代が出した提案と手助け。

 

 最終的に決めるのは若者たちだが、雅代は彼らをそっと後押しする。それはただの親切ではなく、自分もまたそうやって多くの先達に導かれ、応援され、背中を押されて今日があるからだ。本書にはそんな雅代の思いが滲み出ている。

 

 受け継がれていくのは店や味だけではない。助けられ、導かれ、応援された者が、また次の世代の誰かを助け、導き、応援するのだ。そんな恩送りでこの世はできている。それを思い出させる第3巻である。