二
「異議あり」
島田の声が響き渡る。
閻魔は怒りはしなかった。発言は許されている。堂々と主張せよとばかりに、言葉の続きを待っていた。
「そこの鏡……浄玻璃鏡だったか? それからさっきから読み上げてる報告書。ちゃんと公平性は担保されてるのか?」
煽ったつもりだったが、閻魔も獄卒達も、微塵も表情を変えなかった。
おそらく他の亡者達からも、同じようないちゃもんを受けているのだろう。それこそ、うんざりするほど。
それでも島田は、異議を唱え続けた。
「映像なんか、今の時代、好きなだけ改変できるだろ。フェイク動画やフェイクニュースで、罪もない人を自殺に追い込むような悪党がいるんだ。地獄の裁判所が、その罪を知らないなんて言わせないぜ」
ケチをつけてはみたものの、島田自身、映像と記録が正確なことは承知していた。それでも口にしたのは、時間を稼ぎたかったからだ。
話を引き延ばしながら、心を落ち着ける。大丈夫。作戦に抜かりはない。
「フェイク映像でなかったとしても、悪質な切り抜きだろ? ちゃんとどういう状況だったのか、わかってるのか? 例えば、二人目の恋人から金を借りて逃げたってとこだが──」
島田の声が高くなる。
「返すのはいつでもいいって言われてたし、時間はかかったが、ちゃんと返済してるんだ。二年掛けてな。その点については触れず、まるで俺が盗んだみたいに言うのは、恣意的に過ぎませんかねえ?」
「墓穴を掘ったな、島田穣治」
閻魔が憐れんでいる。
「そこまでわかっているなら、浄玻璃鏡の映像にうそがないことぐらいわかるはずだ。金銭の返済についても、確かに完了しているようだが、逃げたことに間違いはないと、倶生神からの報告にある」
ぐっ、と言葉に詰まって、島田は閻魔を睨み返す。
「そういうのを、誘導尋問って言うんじゃあないのか? 卑怯だろ」
「ここは現世ではない。すべては御仏の戒律と閻魔の心に従って審議し、判決すると心得よ!」
気迫にたじろぎそうになりながらも、島田はここまでの会話で判明したことを脳裏で整理した。
まず、うそをついても舌は抜かれない。それどころか、閻魔や獄卒たちに、うそを見抜く能力はないようだ。
柔道部の顧問が地獄に落ちたかどうか、本当に興味があったわけではない。
顧問は存命だ。柔道部のOB会から懇親会の報せが届いており、参加者の一覧に顧問の名前があった。刺される二日前のことだ。
裁判中、閻魔の前で堂々とうそをついたのに、舌は抜かれていない。つまり、弁舌ひとつで切り抜けられるチャンスはまだ残っているということだ。
官僚的な返答も、島田にあるていどの情報を与えてくれていた。
うそを見抜く能力がありながら、黙っている可能性は低いだろう。罪を裁くことが目的なんだから、指摘してさっさと地獄へ落とせばいい。
しないのではなく、できないということだろう。
すぐに情報を取り出せないなんてことも、おそらくない。倶生神や獄卒の書き記した書類は、状況に応じて事もなげに広げている。どこにどんな情報があるのか、全て把握しているということだ。
地獄の裁判は、意外と慎重で公正だ。適当な判断を下したり、一方的に罪を突きつけて地獄行きを命じては来ない。こうして弁明や釈明の機会を与えてくれている。
判決を下すのは閻魔だが、どんな罪かを決めるのは別の菩薩で、裁判そのものがきちんと行われたかチェックする如来さえいる。
裁判システムが完璧ではない裏返しだろう。
ここは確かにあの世で、いろいろと現世と違う法則も存在するが、なにもかもが万能という訳ではなさそうだ。
浄玻璃鏡にしても、なんて都合のいい道具かと思うが、欠点も見受けられる。
まず気づくのは、音が再生できないことだ。
鏡とは、光を反射させて鏡像を映す物体のことを言う。過去と現在の事情を映像として流すことはできても、それ以外の能力はないようだ。道具の本質は超えられないということだろう。
このため、鏡に映る映像が、どういう意図や流れで行われたかを読み解く必要があった。
これが難しい。ただでさえ人の考えていることなどわからない。流れを知るにも、どこから映像を再生すればいいかも、状況次第で変わる。
また、鏡という道具の性質上、光が届かない場所の映像も映せないようだ。
例えば、映像に机が映ったとしても、抽斗が閉じていればその中身までは映せない。クローゼットもだ。
映し出せる範囲も、場所と光源の種類によるだろうが、本人から五十メートルぐらいが限界のようだ。
倶生神の記録にしても、歴史年表のように出来事が書かれているだけで、行動理由や決断に至った思考プロセスは省かれている。
心が読めないからだ。
同時に、声を出すこともできないのだろう。さっきからずっと黙っているし、口が利けるなら、報告書に細かい補足を付け加えることだってできるはずだ。文字だけでは伝わらないニュアンスはある。
浄玻璃鏡と倶生神は、お互いを補完することで、欠点を補い合っているのだろう。
全てにおいて万能な道具や獄卒なんて存在しない。
もしそんなものが存在するなら、裁判などせず、亡者を極楽や地獄へ直行させればいい。
閻魔や獄卒達も、自分達の能力に限界があるとわかっているから、裁判を開いているに違いない。
なにより、閻魔は子供に甘い。
地蔵としての業か、単にお人好しなのか、島田の目から見ても明らかだ。
翔の罪にしても、本人ではなく、そそのかした側を戒めている。
これなら、裏をかくこともできるはず。
閻魔を騙して極楽行きをつかみ取れる。
島田は、顔に出ないよう注意しながら、心の中でほくそ笑んだ。
「俺も息子も殺されてここにいるんだ。かわいそうだと思わないのか?」
「殺される原因は、貴様にあるのではないか? 倶生神の報告では、結婚詐欺と罵られながら刺されたとあるが?」
「女の勘違いだよ。俺は、結婚するつもりだなんて、一言も言ってない」
「結婚を前提としたマッチングアプリで知り合っておいて、それは通じぬぞ」
閻魔の口からマッチングアプリなんて言葉が出ることがおかしくて、島田は笑いそうになった。
「もちろん、性格や相性がよければ考えたさ。けど……まあ、言っちゃあなんだけど、あの女は束縛が強くて、うんざりしてたんだ。で、別れ話を切り出そうとして、結局こじれたんだよ」
「金銭を受け取っておいて、返済もせずに別れると言えば、恨まれて当然であろう」
浄玻璃鏡が光り輝く。次の瞬間には、一万円札の束を島田が受け取っているところが映った。束の数は五つ。五〇〇万円だ。
「俺が強要したわけじゃない。翔がコロナになったときに、女がくれたんだよ」
島田の反論は、まるで前もって用意されていたように澱みがない。
「慣れちまったのか、最近はみんな簡単に済ましてるけど、コロナってのは、重い感染症なんだぜ。未だに大勢の人が罹患しては亡くなってる。絶望して、治療費がどうなるかわからないって口走っても、おかしくないだろ。そしたら女が金をくれたんだよ。返す必要はないってな。うそじゃないぜ。倶生神の記録を見てみろよ。一字一句同じように書かれてるはずだ」
なにか言いかけて、閻魔は黙ったまま書類を手に取った。島田の指摘する箇所を探しているのだろう。その間にも、ぺらぺらと島田は持論を続ける。
「大方あの女のことだ、翔に懐かれてたのも、詐欺の一環だって勘ぐってるんだろうよ。けど、こんな子供に、大人を騙すような演技なんてできるか?」
両肩を竦めて、島田は翔を抱き上げた。
「なあ翔。パパが付き合ってたお姉さん、覚えてるだろ? あの女の人のこと、どう思ってた?」
「僕、あのお姉さん、好きだったよ。優しかったもん。でも最後は怖くて、なんであんなに怒ってたのか、わかんない」
「ほら!」
どうだと言わんばかりにアピールするが、閻魔の顔は険しい。こめかみを人差し指で叩いている。
「確かに、その通りのようだな」
──騙しのコツその一。うそをつくな。
病気になっていないのに病気になった。
有名大学を卒業していないのに卒業した。
そんなうそをつくからバレるし、話がこじれる。
島田は誰を相手にしても、事実を元に、相手が勝手に勘違いするように誘導するのを得意としていた。
ただでさえ、倶生神の記録と浄玻璃鏡があれば、どう行動したかは筒抜けだ。閻魔や獄卒達が見抜けないのは、あくまで心の中だ。行動したうそは、絶対にバレる。
「だがな、島田よ」
得意になりかけたところで、怒りの籠もった視線が島田を射抜く。
「その言葉こそが、典型的な結婚詐欺のセリフそのものではないか!」
一喝と同時に、豊かなヒゲが波打った。笑ってしまいそうになるのを堪える。
そうだよなと、島田自身も思う。それでも、いけしゃあしゃあと惚けて見せた。
「本当のことなんだからしょうがないだろ。それとも、うそをつけって言うのか? 閻魔様が? 人間に? 裁判の席で? まさかな!」
閻魔が苦々しげに唇を噛みしめる。
「他にも、まるで俺が、給付金詐欺でもやってたみたいに言ってたな? 冗談じゃない。手続きのやり方がわからないって泣き付いてきたのは、やつらの方だぜ。手数料取って代理申請することのなにが悪いんだ? 労働には対価が発生するんだ。それが嫌なら自分で調べればいいだろ。てめえらの持ってるスマホは、なんのためにあるってんだよ」
「貴様の所属していたNPO法人は、代理申請をした人たちの名簿を売っただろう。そのため、さらなる詐欺被害が発生している」
「俺が関わってた証拠はあるのか? 捕まったのは、代表と副代表の二人だけだ」
「これを見るがいい」
浄玻璃鏡に、勤めていたNPOの事務所が映される。
代表、副代表、島田が並んで書類を整理していた。特に島田は、申請者の住所録を作る作業に従事していた。
「捕まっていないだけで、貴様も犯罪に加担していたのではないか? これは、売り飛ばす予定の住所録であろう」
「住所録を作ったのは間違いないが、それを売り飛ばしたのは代表達だ。まさかそんなことするなんて、考えもしなかったよ。どうせ、この時なにを喋ってたか倶生神が記録してるんだろ? そいつを調べてから言ってくれ」
「……倶生神の報告には、なにも書かれておらぬ。どうやらこの時は、終始無言だったようだな」
「仲が悪かったからな」
嫌いな臭いを嗅いだ猫のように、閻魔の鼻に皺が寄った。
「俺が名簿の販売に関わってたなら、とっくに警察に捕まってるはずだ。日本の警察は優秀らしいからな」
吊り上げた口元には、皮肉がたっぷりと込められている。
「それに、新たな詐欺被害? だからなんだよ。俺が連中を騙したわけじゃないぜ。もともとあいつらは、お役所文章を理解する頭もなかったんだ。そりゃあ悪い奴らからしたら、いいカモだよな。この件についてやらなきゃならないのは、馬鹿は損をするって教訓を得ることであって、俺に罪をなすりつけることじゃない」
せせら笑いながら、島田は空気が剣呑さを増していくのを感じていた。
表情は変えないが、獄卒たちが苛立っているのがわかる。
島田がたたみかけた。
「カードゲームの件だって濡れ衣だ。翔が話してくれたのを覚えてるよ。遊んでたら、知らないオッサンが、カードを買いたいって声をかけてきたってな」
浄玻璃鏡に視線を送る。
まるで島田の意思に反応したように、当時の状況が映された。
児童公園のベンチで、翔と同級生らしき男の子がカードゲームに興じている。島田の姿はない。
手元のカードは、どう見ても素人がコピーしただけのものには見えないほど精巧だ。
そこへ男が三人現れて、しきりにカードと手にした十万円を交互に指さす。
「見てくれよ。向こうから売ってくれって声をかけてきたんだ。そうだよな、翔?」
「うん!」
念のために確認すれば、翔が勢いよく頷く。
閻魔が、優しい声で顔を覗き込む。太い眉がハの字に垂れた。
「それでカードをどうしたんだい、坊や」
「本当は売りたくなかったけど、どうしてもって言われたの。だから、いやだったけど、売っちゃった。それに……」
ちらりと、不安げに翔が島田を見上げる。
「パパが、前からお金がないって困ってたから。カードを売ったら、助けてあげられるって思って」
「そうか。教えてくれてありがとう」
にこりと微笑んだ閻魔だが、すぐさま視線を鋭くさせて島田を睨む。
なにか言われる前に、反論した。
「印刷会社にいた頃に、いろいろ覚えたんだ。機材さえありゃあ、簡単に同じようなもんは作れる。イラストのデータはネットに転がってるからな。知り合いの印刷工場に頼んで、ちょっと機材を使わせてもらったんだ。おっと、違法じゃないぜ。私的複製ってやつで、法律でも認められた権利だ。子供にカードを買ってやる金がなかったから、家庭内で遊ぶ用に作ったんだ」
「馬鹿者! 売れば違法ではないか!」
「売ったんじゃない。あいつらが無理に買ったんだ。翔も言ってただろ。売りたくなかったけど、どうしてもって言われたって。子供が、見ず知らずの大人三人に囲まれて、断れると思うのか?」
「だとしても、カードが偽物だと告げれば、彼らも大人しく退散したのではないか? 金を目当てに黙って売ったなら詐欺だ」
「それなら大丈夫。向こうも偽物だって承知で買ったんだからな」
「そんな馬鹿な話があるか!」
「じゃあどうしてあいつらは、俺たちを訴えないんだ? 文句のひとつも言われてないぜ」
「ぬっ……」
騙しのコツその二。騙されたと訴えることができない奴らを騙せ。
島田は、奴らがタチの悪い転売ヤーだということを、前もって調べていた。ホームレスを雇い、プラモデルや限定グッズを買い占め、フリマアプリで派手に稼いでいた連中だ。界隈では有名で、はめられたと知るや、ざまあと笑う奴らの方が多かったぐらいだ。
「もし本物だと思って買ったなら、あいつらこそ悪人だろ。きちんとしたショップの買い取りなら、一枚八十万円はかたいカードだからな。子供を騙して買ったってことだ、あくどいにも程がある」
義憤に駆られたとでも言いたげに、島田は購入した相手を非難する。
翔が言ったように、本当は嫌だった、無理矢理だったと世間に向かって主張すれば、非難の矛先がどちらに向かうかも予想できる。
「ここまでの説明でわかってくれるだろ? 俺たちは、善良なただの一市民なんだ。怪しく見えるのは、意地の悪い切り取り方をされたからだ。いや、別に地獄の裁判システムや、あんたらを非難してるわけじゃないぜ。俺だって、聖人君子ってわけじゃないんだ。ちょいと怪しく見える瞬間てのはあっただろうよ。二度三度同じ手口で金を手にしてたなら、そりゃあそういう詐欺師だって言われてもしょうがないんだろうけど、そうじゃなかっただろ? 偶然だよ、偶然。偶然たまたま、人生の一部分に、怪しく見える瞬間が複数存在した。それだけだって」
騙しのコツその三。同じ手は使うな。
うまくいった手口こそ、対策を立てられる。
それに、捕まった場合、計画性や常習性があると思われれば、罪も重くなる。
偶然や不作為を主張するためにも、人を騙す方法は、すべて一回きりのオーダーメイドでなければならない。
「白々しい……」
苦虫を噛みつぶしたような声は、閻魔でも翔でも、もちろん島田本人でもなかった。なりゆきを見守っていた獄卒の一人のものだ。
閻魔に見咎められて、獄卒は居住まいを正す。それでも軽蔑するような視線を島田に向けたままだ。
面白くなって、島田はその獄卒に向かって語りかけた。
「そうかい? どのあたりがそう思った? もちろん、ちゃんと証拠があっての発言なんだろうな? まさか地獄の裁判所が、憶測だけでものを言うはずないよなあ?」
さすがは獄卒だ。煽られても、顔の筋肉はぴくりとも動かない。
それでも、体内に籠もる怒気が湯気のように立ちのぼるのを、島田は見逃さなかった。
もう少し弄ってやるか? 島田の頬に意地の悪さが滲む。
「そもそも地獄の裁判、厳しすぎやしませんかい? あらゆる殺生が禁忌なんて、おかしいだろ。生きてりゃあ飯も食う。飯を食うってことは、生き物の命を奪うってことだ。動植物どっちもな。それに昭和のクソガキどもは、カエルのケツにストロー突っ込んで遊んだりしてたんだろ? こいつら全員地獄に落ちなきゃならないほどか? これで駄目だっていわれるなら、戒律の方が間違ってるんだよ」
ついに獄卒が怒りを見せて牙を剥いた。
「貴様! こともあろうに御仏の戒律を愚弄するか!」
「そんなつもりはないよ。ただ……」
島田の目に、仄暗い光が宿る。
「どいつもこいつも、人間に期待しすぎなんだ。そこまでたいした生き物じゃないんだよ、人間なんて」
吐き捨てた声には、聞くものの鼓膜を引っ掻くようなざらつきがあった。
「狡くて、あくどくて、誰かには優しくて、誰かには冷たい。愛おしい相手もいれば、憎くてしょうがない奴もいて、愛憎半ばって奴もいる。清濁併せ呑むって言い方が正しいかどうかはわからんけど、全部がごちゃまぜになった生き物なんだよ、人間は。だからこそたくましいし、弱くて、脆くて、尊い……違うか?」
「なるほど、それが貴様の信念か」
閻魔に問われて、島田は後悔するように奥歯を噛みしめた。余計な事を言ったとでも言いたげだ。
「そんな大げさなモンじゃないよ。ただ、いろんな奴がいて当たり前だろ。正しい道はこれしかないなんて決めつけは、好きじゃないね」
感情を糊塗するように、人を食ったような笑顔が戻ってくる。
気を取り直すように胸の前で手を叩き、島田はことさら声を張った。
「人を騙して平気なら、俺を殺した女と綺麗に別れられたはずだ。適当なうそでもつくか、なにも言わずに、とんずらすればいいんだからな。できないから話がこじれたんだ。だろ? 殺されたのは、むしろ誠意を見せた結果だと思ってもらいたいね」
「そこまで!」
ぴしゃりと笏が机を叩く。
空気が破裂するような勢いを全身で受け止めて、島田は思わず翔を庇った。
「これより判決を下す」
「ちょっと待ってくれ。まだ言いたいことが山ほど──」
「不要だ。これ以上建設的な議論は不可能と判断した」
舌打ちして、島田は翔を後ろに下がらせた。代わりに自分が一歩前に出る。
調子に乗りすぎたようだ。閻魔や獄卒たちを窺うに、説き伏せられたとは思えない。
これが現世での裁判であっても、状況は不利だ。
それぞれの犯行に対して、島田の作為や故意があったという決定的な証拠を、閻魔側は提出できていない。
しかし状況証拠は積み重ねられている。
裁判官の心証で、どちらに転ぶかわからない。
果たして閻魔はどう出るか……島田が息を呑む。
「島田穣治よ。貴様の言い分、確かに納得できるものもあった。よって、最初の沙汰は取り消す」
希望が島田の胸に満ちる。
「変わって島田穣治を有罪、島田翔を無罪とする」