母が突然失踪し、東京から青森に住む祖母のもとへ引っ越すことになった小学6年生の少年。地元で「拝み屋」と呼ばれる祖母は、鋭い観察眼と冴えわたる推理で人々の悩みを解き明かす、町の名探偵だった。
 見知らぬ土地での暮らしに戸惑いながらも、少年は祖母とともに数々の事件に挑むことに。消えた三味線の謎、ねぶた祭の夜に起きた誘拐事件──。不可解な謎と向き合うなかで少年はやがて、家族の意味を問い直していく。

 

「小説推理」2026年2月号に掲載された書評家・あわいゆきさんのレビューで『拝み屋のおばあちゃんと僕』の読みどころをご紹介します。

 

 

■『拝み屋のおばあちゃんと僕』五十嵐大  /あわいゆき [評]

 

青森で暮らす〈拝み屋〉のおばあちゃんと孫息子が送る、小さな日常の積み重ね

 

 あなたの身近に〈拝み屋〉はいるだろうか? いない人がほとんどだろう。〈拝み屋〉は宗教のような派手な儀式を行い、霊感じみた超常的な力を駆使して人々の悩みを解決する。占いをスピリチュアルに特化させた職業をイメージすれば理解できる……かもしれない。

 

「かもしれない」のは、あなたが理解したつもりになっているだけの可能性があるからだ。そして理解したつもりになっているときが、実は最も危うい。私たちは、真になにかを理解することなどできるのだろうか?

 

 母親が失踪した小学6年生の櫻井蒼を引き取ったのは、拝み屋である祖母の工藤千津だった。青森に住む千津は動画投稿サイトで「拝み屋チャンネル」を運営しており、地元では「カミサマ」と呼ばれて慕われている。千津のもとに届く依頼を通じて、蒼もいくつもの事件に協力していくことになる。

 

 蒼が協力するのは五つの事件だ。消えた三味線を探したり、友人が突飛な行動に出た原因を探ったりする「日常の謎」が目立つ。多くの事件に共通しているのは、他人を理解したつもりで行動を起こし、事件が複雑になってしまった背景だろう。相手を理解してあげる善意がすれ違いにつながる可能性を指摘するのだ。そのうえで善意を否定せず、さらなる理解をそっと促すところに本作のやさしさがあらわれている。蒼も事件を通して、失踪した母親や謎の多い祖母の真意を理解していく。

 

 序盤で明かされるのだが、千津には秘密がある。実は彼女に超常的な力などなく、その実体は謎を推理して解き明かす名探偵なのだ。にもかかわらず、千津は人々から慕われている──一体なぜなのか?

 

 それは千津の力があろうとなかろうと、人々を救っているからだ。その積み重ねによって、拝み屋という常識からかけ離れた職業でも理解され、受け容れられていく。きっと私たちは、そう簡単にはお互いに理解まで至れない。だから日常の積み重ねを描くことで、真の理解を目指そうとしているのが本作だ。