累計190万部を突破した警察小説の金字塔、「犯人に告ぐ」シリーズの最終巻『犯人に告ぐ4 暗幕の裂け目』がついに刊行された。神奈川県警の特別捜査官・巻島史彦は、誘拐や詐欺、殺人など数多くの事件の黒幕であるワイズマンを逮捕するため、再び劇場型捜査に乗り出す。神奈川県警は悪の首魁に手錠をかけることができるのか――。
 シリーズを書き終えた雫井脩介氏に話を伺った。

取材・文=立花もも

 

堂々の完結! シリーズを書き続けた思いとは

 

――劇場型捜査で犯人を追い詰める神奈川県警の巻島史彦が活躍する「犯人に告ぐ」シリーズ。21年の時を越えて、ついに完結しました。

 

雫井脩介(以下、雫井):そもそも、2001年に1巻を刊行したときは、シリーズ化するつもりなんてなかったんですよ。でも、僕のなかに巻島という男が、案外、しっかりと息づいていることに気がついて、書いてみてもいいかなあと思ったのが『犯罪小説家』(2008年)を刊行したころ。でも実は、1巻は警察内部のことをよく知らないまま書いていたんですよね。

 

――えっ、ずいぶんとリアリティーがあると思っていましたが。

 

雫井:もちろん神奈川県警本部を見学したり、警視庁関連の資料から警察の組織体制や階級などを頭に入れたりということはしましたが、例えば捜査一課長には専用の部屋があるのか、刑事部屋の中に机があるだけなのか、それが何かに仕切られているのか、ということも分からない。シリーズとして続けていくなら警察内部の描写も増えるわけで、改めて取材しなくてはいけないな、と思いました。それで、双葉社さんのつてをたよって、神奈川県警の刑事さんを紹介していただいたんです。そうしたら、部署名にしても役職名にしても神奈川県警の組織体制は警視庁とはまた違っていた。その取材を生かしながら、続編では警察内部のリアルな描写を心がけつつ、物語を構築していきました。

 

――神奈川県警といえば、よくないニュースが報道されることも多いですが……。

 

雫井:その悪いイメージを巻島が払拭していく、というところから1巻は始まっていて、そこからずいぶん年月も経ったのでだいぶよくなったのかなという気もしていたんですが、現実はどうなんでしょうね。良くないニュースで神奈川県警の名を聞くと、複雑な気持ちになるというほどではないけれど、ああ……と思ったりはします(笑)。

 

――2巻以降は、特殊詐欺の指南役であるリップマンこと淡野、犯罪グループの黒幕であるワイズマンと、警察内部の協力者・ポリスマンを巻島は追うことになります。4巻である今作でようやくワイズマンとポリスマンの正体が明かされますが、三部作の構成は最初から決めていたのでしょうか。

 

雫井:2巻で対峙するのは実行役の青年・砂山知樹とその弟、3巻では淡野、そして4巻でワイズマンとポリスマンという流れは決めていましたが、細部は書きながら考えていきましたね。というのも、年に一冊出すというようなスピード感で書けるものではなく、長い付き合いになることがわかっていたので、そのつど考えるほうが都合がよかったんですよ。

 

――一作ごとに、犯罪にも時代性が反映されているのも、そのためでしょうか。

 

雫井:そうですね。自然とそうなっていったのだと思います。巻島が劇場型捜査を行うメディアもテレビからネット配信番組変わり、そのことが結果的に、ワイズマンの正体や目論見にも関わっていきました。4巻で書いた総裁選が、現実と重なったのは狙ったわけではなく、定期的に行われることなのだから、そういうこともあるだろうと思いますが……。そもそも犯罪というのは、社会のひずみから生まれるものでもあるので、今、僕が見聞きして興味をもったことをとりいれていくと、自然と「今」が映し出されるのかなと思います。

 

 

〈後編〉に続きます。

 

 

【あらすじ】
天才詐欺師・淡野は、警察の包囲網を潜り抜け、深手を負ったまま行方をくらました。神奈川県警の特別捜査官・巻島は淡野を逮捕すべく地道な捜査を進めながら、ネットでの配信番組〔ネッテレ〕へ再度出演し、公開捜査を試みる。一方、一連の犯罪の首謀者であり、警察に包囲された淡野を切り捨てる指示を出した〔ワイズマン〕は、横浜へのIR誘致に向けて魑魅魍魎の政界へ介入していく。神奈川県警は事件の黒幕である〔ワイズマン〕を見つけ出し、手錠をかけることができるのか。