累計190万部を突破した警察小説の金字塔、「犯人に告ぐ」シリーズの最終巻『犯人に告ぐ4 暗幕の裂け目』がついに刊行。誘拐や恐喝、殺人など数多くの犯罪を重ねる天才詐欺師を、神奈川県警の異端児は逮捕できるのか?

「小説推理」2025年12月号に掲載された書評家・細谷正充さんのレビューで『犯人に告ぐ4 暗幕の裂け目』の読みどころをご紹介します。

 

犯人に告ぐ4 暗幕の裂け目

 

犯人に告ぐ4 暗幕の裂け目

■『犯人に告ぐ4 暗幕の裂け目』雫井脩介  /細谷正充 [評]

 

神奈川県警の巻島史彦が、巨悪と対峙する。劇場型捜査を扱ったシリーズは、ついに完結を迎えた

 

 劇場型犯罪ならぬ劇場型捜査。事件を担当する刑事が、マスコミを使って情報を求めるだけでなく、犯人にも直接呼びかける。この秀逸なアイデアを起用した雫井脩介の『犯人に告ぐ』は、大きなヒット作となり、映画化もされた。作品はシリーズ化され、第四弾となる本書で、見事に完結したのである。一発ネタとしか思えない劇場型捜査を、ここまで膨らませた作者の手腕を、大いに称揚したい。

 

 神奈川県警の特別捜査官の巻島史彦は、部下たちと共に、大胆な犯行を繰り返す〔リップマン〕を追っていた。だが前巻で、あと一歩のところまで追い詰めながら、取り逃がしてしまう。とはいえ〔リップマン〕は、彼を使嗾し そうしていた〔ワイズマン〕の手下に襲われ生死不明。そんな状況を利用し巻島は、かつて劇場型捜査のために使った、ネット配信番組「ネッテレ」に出演し、〔ワイズマン〕の正体に迫ろうとするのだった。また、警察署内にいるスパイの〔ポリスマン〕の正体も暴こうとする。

 

 一方、大学院の博士課程に進んだ梅本佑樹は、奨学金の返済に悩まされていた。〔リップマン〕の犯罪に下っ端としてかかわっていた梅本は、金欲しさに関係者と縁を切らなかったことから、予想外の事態に巻き込まれていく。

 

 物語は群像ドラマの様相を呈している。警察側と犯人側だけでなく、さまざまな人物が複雑に絡み合う。横浜にカジノを誘致するIR計画や、市長選まで組み入れたストーリーが重厚だ。巻島の部下でラッキーマンの小川や、いつのまにか事件の鍵を握ることになる梅本の扱いも巧みである。

 

 そしてシリーズを通じて厳しい捜査を強いられた巻島は、本書でも苦しむことになる。巨悪である〔ワイズマン〕と、それに群がる人々によって、捜査陣は敗北したかに見えた。ページ数も少なくなり、ドキドキしながら読んでいたら、巻島がやってくれた。だから気持ちよく、シリーズのフィナーレを堪能したのである。ああ、面白かった。