吉川英梨による話題の任侠警察小説第2弾、『菊の慟哭』が発売となった。

 六本木交差点の銅像にヤクザの顔面の皮が張りつけられ、日本最大の暴力団の分裂抗争が激化するなか、女マル暴刑事・桜庭誓は、行方不明となった隻腕のヤクザ・向島春刀を追っていた。

 

 隻腕の殺し屋はなぜ生まれたのか? 誓の出生の秘密とは? 二人の壮絶な過去がついに明らかになる本作の読みどころを、「小説推理」2025年11月号に掲載された書評家・内田剛さんのレビューでご紹介する。

 

菊の慟哭

 

■『菊の慟哭』吉川英梨  /内田剛 [評]

 

全編クライマックスの衝撃は規格外。隻腕のヤクザと女刑事の禁断の関係に打ち震える!

 

 本書は8月に文庫化された『桜の血族』の続編である。「十三階」シリーズの黒江律子など、極めて個性の強いキャラクターを生み出してきた著者の才が、本作でも存分に発揮されている。苛烈な運命に翻弄されるマル暴刑事・桜庭誓が実に魅力的で、キャリアを代表する看板シリーズとなる予感がする。

 

 前作『桜の血族』では、眼前で銃撃された夫の復讐のために立ち上がった誓の勇姿が描かれた。闇に覆われた事件の真相。隻腕のヤクザ・向島春刀との禁断の関係。緊迫の展開に歪んだ任俠道が絡みつく。弱者から搾取するこの国の病理。複雑な運命の糸に飛び散る血しぶき。情け容赦は一切なし。絶叫必至の物語だ。

 

 そして待望の続編『菊の慟哭』の登場となる。ますます激化する暴力団分裂抗争の中心にいる殺し屋。それは桜庭誓と極めて近い関係の向島春刀であった。誓の出生の秘密に刻まれた母・菊美の記憶。「誓」という名前に込められた想い。そこには慟哭のエピソードが隠されていた。

 

 そして残忍な隻腕の鬼が誕生する。なぜおぞましいほどの狂気が芽生えたのか。ヤクザと刑事、男と女。血なまぐさい阿鼻叫喚の修羅場の連続に言葉を失う。仁義なき闘いは、まだまだ終わらないのだ。

 

 最大の読みどころは「女」と「血」だ。これは吉川英梨のお家芸といってもいいだろう。徹底した男社会のストーリーの中で、随所に女の武器を用意する。そして「血」は事件で流されるだけではなく、受け継がれる血脈の意味もある。親から子へと伝わる絆があれば、任俠の世界のように親分から子分へと盃を交わした契りもあるのだ。ここに桜庭誓と向島春刀がいかに重なっていくのか。ぜひ本書で堪能してもらいたい。

 

 稀代のストーリーテラーである吉川英梨は裏切らない。抜群のリーダビリティには定評があるが、昨今の作品を眺めても、筆力の漲りには目を見張るものがある。人気と実力は不動だが、現状に甘んじることなく進化し続ける作家なのだ。今後の活躍はもちろん、『菊の慟哭』のその後も期待して待とう。